シリーズアメリカ再発見㊾
ネブラスカの春〜北米最大のツルの飛来地を訪ねて

文&写真 / 佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

早朝、プラット川の浅瀬から飛び立つカナダヅル。「Rowe Sanctuary」で撮影
Photo © Mirei Sato

アメリカのほぼど真ん中にあるネブラスカ州。そのまたほぼ真ん中を流れるプラット川(Platte River)。ここに北米最大の、カナダヅル(Sandhill Crane)の飛来地がある。世界に60〜70万羽いるカナダヅルの8割以上が、3〜4月にかけてプラット川の周辺にやってくる。その大群を見ようと、世界中からバードウォッチャーも集まる。

プラット川は、深さわずか1インチ、幅1マイルで、ツルが好む広い浅瀬に恵まれている。川沿いにはトウモロコシ畑が広がり、湿った平地と、ネブラスカ特有のひらけた草地(グラスランド)が続く。ツルが早春を過ごし、求愛や子育てをしながら栄養をつけて、北へ飛んでいくための準備をするのに、理想的な場所だ。

夜の間、川の中州や砂岸で休んでいたツルたちは、朝日が昇るといっせいに活動を始める。仲睦まじくステップを踏むようなダンスを見せたり、細い足を蹴り上げて喧嘩をしたり。ボディーランゲージが豊かで、見ていて飽きない。

額の色は、ツルの気分によって赤やグレーに変わる。太陽の加減で私たちの目にはピンクにも黒にも映り、浅瀬にゆらゆらと揺れる葦のような、ひらひらと舞う花びらのような、そんな錯覚も生む。運がよければ、世界に300羽しかいないというアメリカシロヅル(whooping crane)も見られる。

飛び立つときは、首を長く前に伸ばして、離陸を待つ飛行機のように一列に並ぶ。プラット川の上空に何万羽ものツルが旋回する光景は、まさに壮観だ。鳴き声がこだまして、オーケストラの演奏を聞いているかのよう。視覚だけでなく聴覚も刺激される、エモーショナルな体験だった。

夕暮れとともに、プラット川の浅瀬に集まってくるカナダヅル。「Rowe Sanctuary」で撮影
Photo © Mirei Sato

日本人にとって、ツルほど深いシンボリズムをもつ動物はいない。改めて意味を説明するのが難しいほど、文化に根づいている。折り鶴や千羽鶴はもちろん、童話や絵画、着物のモチーフと、暮らしの中でツルを目にする機会はたくさんある。イメージだけでさまざまな感情を呼び起こし、愛国心もかきたてる。アメリカ人が、白頭ワシ(bald eagle)に目を輝かすのと同じだろう。

そうは言っても、振り返ってみると、私自身は動物園でしかツルを見たことがない。飛来する群れや求愛のダンスなど、北海道の原野にでも行かないかぎり見られないのではないか。日本で生まれ育った私が、ネブラスカで初めて野生のツルをナマで見ることになるとは思いもしなかったが、そのイメージは私が長らく抱いていたものと同じだった。

春という季節のはかなさ、切なさ。親しんだ場所に別れを告げて、新天地へ飛び立つ勇気の象徴。1羽ずつ独立しながらも、群れや家族への忠誠(loyalty)を忘れない。秩序あるフリーダム、という表現がぴったりくる。強さ(strength)、謙虚さ(humility)、長寿(longevity)、優美さ(grace)・・・。桜が舞い散るように飛ぶツルの姿から、そんな言葉が自然に頭に浮かんだ。

早春のネブラスカ
Photo © Mirei Sato

近年、プラット川の周辺には、宅地開発の波が押し寄せている。バッファローやプレイリーチキンが生息するグラスランドも、激減しているという。ネブラスカなんて「middle of nowhere」だと笑うのは簡単だが、アメリカは人間だけのものではない。人間から見たら「何もない」ような土地が、野生動物には必要だ。いつまでもツルが飛んできてくれる場所でありたいーー。観光資源を活かしながら環境を守るべく、地元の人たちは苦心している。

日本人はとかく、みんなが行く観光地にばかり旅をしたがる。ネブラスカなど、候補として考えないだろう。アメリカ人でも、「ネブラスカに行ってきた」と言うと、たいてい「WHY?」と怪訝そうに聞き返してくる。そんなときは、「WHY NOT?」と返せばいいのだ。

偏見を捨てて、「Why not?」の精神で、これからも旅をしていこう。ネブラスカの草原に落ちる巨大な夕日を見ながら、そう心に誓った。

◆  ◆  

旅のおすすめ情報

Iain Nicolson Audubon Center at Rowe Sanctuary
44450 Elm Island Road, Gibbon, NE
www.RoweSanctuary.org

環境保護の非営利団体「National Audubon Society」が運営する。カナダヅルの飛来数で世界のトップ10に入る。毎年2〜4月にオープン。ブラインドと呼ばれる観察小屋は人数制限があり、5月に翌年分を売り出すが、すぐに予約で満杯になる。早朝の観察ツアーのほか、宿泊できるブラインドもある。

Crane Trust Nature & Visitor Center
9325 South Alda Road, Wood River, NE
www.CraneTrust.org

カナダヅルとアメリカシロヅルの生息環境を守る非営利団体。ブラインドでの観察から、コテージ宿泊やカヤック、サファリツアーなどを含めたVIPパッケージまで、幅広いアクティビティーを用意する。

「Crane Trust」が管理する土地で暮らすバッファロー
Photo © Mirei Sato

Prairie Chicken Dance Tours
www.PrairieChickenDanceTours.com

ネブラスカ南西部で早春(3〜4月)の早朝にしか見られない、珍しいプレイリーチキンの求愛ダンスを観察するツアーを催行している。少ないメスをめぐって何十羽ものオスが争う。相撲のように互いを見合ってから、飛び上がったり叩きあったり、派手なアクションを繰り広げるのが魅力だ。鳥を邪魔しないように、夜明け前に観察小屋(ブラインド)に入って、朝焼けと同時に始まる「ダンス」を待つ。大平原に住むプレイリー・インディアンの部族に伝わる踊りにそっくりで、先住民はここからインスピレーションを受けたのだろうと思わせる。

オスのプレイリーチキン。求愛のダンスをするときは、
耳の後ろにある羽がオレンジ色をした風船のようにふくらむ
Photo © Mirei Sato

メスをめぐるオス同士の争いは、カンフー映画のような空中戦になる
Photo © Mirei Sato

Coppermill Steakhouse & Lounge Restaurant
US 83 & Coppermill Street, McCook, NE
www.CoppermillSteakhouse.com

ネブラスカは「ビーフカントリー」だ。同州で育てられている牛の数は、人間1人に対して4頭。人口比でテキサスを上回る。南西部マクーク郡にあるこのステーキハウスは、州民なら誰でも知っている。名物のプライムリブは、文句なし、これまで食べた中で一番美味しいプライムリブだった。

「Coppermill Steakhouse」の名物プライムリブ
Photo © Mirei Sato


取材協力(Special thanks to)
Nebraska Tourism Commission (www.VisitNebraska.com)

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佐藤美玲 (Mirei Sato)

佐藤美玲 (Mirei Sato)

ライタープロフィール

東京生まれ。子供の時に見たTVドラマ「Roots」に感化され、アメリカの黒人問題に対する興味を深める。日本女子大英文学科アメリカ研究卒業。朝日新聞記者を経て、1999年、大学院留学のため渡米。UCLAアメリカ黒人研究学部卒業・修士号。UMass-Amherst、UC-Berkeleyのアメリカ黒人研究学部・博士課程に在籍。黒人史と文化、メディアと人種の問題を研究。2007年からU.S. FrontLine誌編集記者。大統領選を含め、アメリカを深く広く取材する。

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