第157回 クラウドファンディングとバイラル

文/日比野泰(Text by Hiroshi Hibino)

 クラウドファンディングという用語を聞くようになってからしばらく経ちます。群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、要は不特定多数の人から、インターネットなどを通じて、個人や組織が資金提供や支援などを得る行為を指します。資金調達を実現する場、つまり群衆とプロジェクト立案者を引き合わせるプラットホームとしては、kickstarterやindiegogoなどが有名です。
 多額の資金が必要な製品開発やイベント開催でも、ネットを通じて、不特定多数の人に、比較的低額な出資を呼び掛け、一定額が集まった時点で、プロジェクトを開始させることが可能になり、資金調達のハードルがかなり下がったことや、アイデアによっては、不特定多数の人の目に、プロジェクトの本格展開前から露出でき、バイラル(口コミ)になることもあり、銀行やベンチャーキャピタルには相手にされないようなスタートアップ企業やクリエーターでも、容易に起業でき、成功できるチャンスが広がったと言えます。
 クラウドファンディングには、資金提供者に対するリターン(見返り)のタイプが大きく3つあり、寄付、投資、購入(プロジェクトが提供する何らかの権利や、物品を購入することで支援を行う)に分けられます。その中でも寄付のタイプは、寄付額によってさまざまな特典を与えるものがあり、中にはそのユニークさやユーモアだけで、時々バイラルになることがあります。
 昨年、こういうアイデアと実践力をもっと自分も持つべきだなぁと陰ながら自省させられた、ある有名なバイラルになったネタというか、”プロジェクト”があります。ご存知の方も多いかもしれませんが、一応ご紹介しておきます。

プロジェクト名は「ポテトサラダ」

 ザック“デンジャー”ブラウンと名乗る人物が、kickstarterにて立ち上げたこのプロジェクト、中身は、これだけです。「Basically I’m just making potato salad. I haven’t decided what kind yet.」(基本的には、ただポテトサラダを作る。まだ種類は決めてないけど)。
 通常なら、資金調達のための広告代理店が制作するプレゼン用動画などがくるのですが、基本はテキストだけでした。
 用意された報酬としては、1ドルの寄付で、彼のウェブサイトに名前が掲載され、調理時に名前を大声で呼んでもらえ、2ドルの寄付で、(上記に加え)調理風景を撮影した写真が貰え、3ドルなら、(上記に加え)ポテトサラダを少量送ってくれるとか。5ドルなら、(上記に加え)希望食材をサラダに加えてくれて、10ドルなら、(上記に加え)実際の調理場へ見学に行けるなど、とにかくネタとしか思えないものばかりでした。しかしこれがネットユーザーには受けて、大変な反響を呼びました。
 当初の目標額は10ドルでした。それに対して、反響を得ると共に報酬内容も多少スケールアップさせていきましたが、最終的には6911人のバッカーズ(支援者)を募り、実に5万5492ドルを獲得したのです。もちろん、いろんなメディアにも取り上げられ、大きなバイラルになったのも大きかったにせよ、繰り返しますが、これはある無名の個人が、ただポテトサラダ作りに初めて挑戦するというだけの話でした(笑)。最終的にブラウン氏は、ポテトの一大イベントを開催し、イベント収益や既に得ていた2万ドル近くをチャリティーに寄付したそうです。

国の破産をも救える?

 最近で言えば、15億4000万ユーロの債務を抱えて返済期限が迫っていたギリシャの財政破綻が話題になっていましたが、あるイギリス人男性が、やはりクラウドファンディングでギリシャを救おうと、indiegogoにて、「Greek Bailout Fund(ギリシャ破綻救済基金)」というプロジェクトを立ち上げ、寄付を募っていたのが話題になりました。
 目標額は16億ユーロで、報酬は、3ユーロでギリシャ首相からのポストカード、6ユーロでフェタチーズとオリーブのサラダ、10ユーロでウーゾ(ギリシャのお酒)の引換券、25ユーロでギリシャワインなどの引換券を、160ユーロでギリシャ特産品の詰め合わせを、送料別で送るとか。5000ユーロならギリシャのペア旅行、100万ユーロなら、ヨーロッパ市民、特にギリシャ市民からのありがとうだそうです。
 彼の主張としては、16億ユーロは高額に感じるかもしれないが、ヨーロッパの全員が、1人3ユーロでも寄付すれば到達できるそうで、3ユーロと言えば、イギリスでビールグラス半分の値段でしかないという発想で、事実、8日間で何と10万8654人もの寄付を募り、193万577ユーロも集めたそうです。
 結局、この試みは目標額には届かず、返金したようです。今のネット時代は賛否両論あるとは思いますが、クラウドと適切に作用することで、健全かつ有益な活動のチャンスが生まれたことは、素晴らしいことだと思います。

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日比野泰 (Hiroshi Hibino)

日比野泰 (Hiroshi Hibino)

ライタープロフィール

Artisan Crew代表。静岡大学工学部卒。2001年に渡米し、ロサンゼルス・エリアにてArtisan Crewを設立。チーフエンジニアとして日米の企業向けに基幹システムを多数開発。次第にニーズと共に、Webマーケティングを中心とした、ブランディングやアメリカ進出サポート、バイラルマーケティングなど、広告代理店としてのサービス提供へと展開するにつれて、Webプロデューサーやクリエイティブディレクターとして、分析・戦略の立案からチームのマネージメントなどの役割を担当。年商2億円増のSEO、月商10万ドル超のECサイト、シェア1位を獲得するブランディング、ファン数10万人超えのSMM、売価の1%以下のCPAを実現するPPC広告など、米系企業とも対等以上に戦える希少な日系企業として、成果の伴うサービスをモットーに企業マーケティングにも貢献。

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