一挙33本紹介 映画冬の陣

文/はせがわいずみ(Text by Izumi Hasegawa)

毎年この時期には、VFXをふんだんに使ったSF大作だけでなく、アカデミー賞狙いのドラマ作品も続々と公開される。シリーズのファンにはたまらない「Star Wars」と「Harry Potter」のスピンオフをはじめ、遠藤周作の小説「沈黙」をマーティン・スコセッシ監督が映画化する「Silence」など注目作が目白押しだ。そんな冬の映画を33本を一挙紹介する。

「Hacksaw Ridge」より© Cross Creek Pictures Pty Ltd

「Hacksaw Ridge」より
© Cross Creek Pictures Pty Ltd

すでに開幕?!

 今年の映画・冬の陣は、11月4日からすでに始まっている。ディズニーが安定したドル箱として続々と映画化してきたマーヴェル・コミックスの中から、またもや新たなドル箱として登場した「Doctor Strange」と35ページでインタビューを紹介するメル・ギブソンの監督作「Hacksaw Ridge」が同日に公開された。前者は、主役は彼しかいないとして、ベネディクト・カンバーバッチの予定に合わせて製作も公開も遅らせたほど。その甲斐あって、これほどないハマリ役にファンを狂喜させた。ちなみに、ニューヨークでの撮影中に現場でコミックブック店を見つけたカンバーバッチは、衣装のままで来店し、店内の人々を驚かせたという。お金を持ち合わせていなかった彼は(衣装のままだったから当然!)、何も買えなかったのを申し訳なく思い、「映画がうまくいかなかったら、ここに来て本を棚に並べるのを手伝う」と申し出たとインタビューで話していた。本原稿は公開前に書いているが、映画は当然大ヒットしているだろうから、彼が本を棚に並べる姿は残念ながら拝めないと確信している。

「Fantastic Beasts and Where to Find Them」より© 2015 Warner Bros. Entertainment Inc. and Ratpac-Dune Entertainment LLC.

「Fantastic Beasts and Where to Find Them」より
© 2015 Warner Bros. Entertainment Inc. and Ratpac-Dune Entertainment LLC.

 11日にはSF大作「Arrival」が、そして、18日には「Harry Potter」の待望のスピンオフ「Fantastic Beasts and Where to Find Them」が封切られたが、同日には女子高校生の青春を描いた「The Edge of Seventeen」や交通事故で首を損傷しながらもチャンピオンになったボクサーの実話の映画化「Bleed for This」、不注意で子どもたちを焼死させてしまった男の人生を描く人間ドラマ「Manchester by the Sea」、ファッション・デザイナー、トム・フォードの監督作第2弾の「Nocturnal Animals」、ジョン・トラボルタ主演のアクション・スリラー「Life on the Line」が公開された。

「Allied」より© 2016 Paramount Pictures.

「Allied」より
© 2016 Paramount Pictures.

 感謝祭の週末は、ブラッド・ピットとマリオン・コティヤール共演の第2次世界大戦時代のスパイ同士のロマンスを描いた「Allied」、ハワイを舞台にしたディズニーの新プリンセス物語「Moana」、億万長者の映画製作者ハワード・ヒューズの元で働く若い男女のラブストーリー「Ruled Don’t Apply」、オーストラリア人夫婦の養子となったインドの孤児が成長後に実母と兄を探しに故郷を旅するドラマ「Lion」、13年ぶりの続編となる「Bad Santa 2」が封切られる。

「Moana」より© 2016 Disney

「Moana」より
© 2016 Disney


「Bad Santa 2」より© 2016 Santamax Distribution, LLC.

「Bad Santa 2」より
© 2016 Santamax Distribution, LLC.

 この週公開の作品で日本人として見逃せないのが「Mifune: The Last Samurai」だ。三船敏郎の人生を追ったドキュメンタリー映画で、スティーブン・スピルバーグやマーティン・スコセッシのコメントに加え、共演経験のある女優らが、三船について語る。監督は、広島と長崎の原爆についてのドキュメンタリー映画「White Light, Black Rain: The destruction of Hiroshima and Nagasaki」などでお馴染みのオスカー監督、スティーヴン・オカザキだ。

「Mifune: The Last Samurai」より© Strand Releasing

「Mifune: The Last Samurai」より
© Strand Releasing

 「Mifune: The Last Samurai」では、サイレント時代のチャンバラ映画(素晴らしい殺陣とアクションに驚く!)、三船の生い立ち、女性に優しい性格、黒沢監督との関係などが語られる。中国で写真館を経営する家に生まれた彼は、赤ちゃんの頃から父親のカメラのモデルをしていたと紹介されるが、筆者はそうした経験がカメラの前で自由に演じることのできる素地を作ったのだと確信した。

監督は語る!
「Mifune: The Last Samurai」スティーヴン・オカザキ

© Strand Releasing

© Strand Releasing

 サイレントのチャンバラ映画のドキュメンタリーを作ろうとしていた時、三船のドキュメンタリー製作の話を耳にして、ぜひやらせてほしいと言ったんだ。なぜなら、悲しいかな日本人は映画史に無頓着なところがあって、古い映画を集めるのに難航していたからね。ただ、心配だったのが、三船を実際に知っている、彼と同世代の映画人がどれほど生き残っていて、コメントをもらうのに十分な人数が集まるかというものだった。本作の出演者の平均は80歳代だけど、みんなとても『元気』で、三船の話になると瞳を輝かせて話してくれた。本作で改めて感じたのは、三船と黒沢のコンビがいかに特別だったかということ。彼らはあの時代の典型的な日本の映画作りをしていない。予算、スケジュールも含め、あの時代は今よりもかなり大変だった。でも黒沢が強固な意志の持ち主だと周りは知っていた。あの時代のほかの映画を観れば、比較にならないことがハッキリと分かる。ミステリアスな人だと思われがちな三船だけど、そうじゃない。本作を通して彼の素晴らしさを再確認し、どんなに特別な時代だったかを痛感した。あの15年の間、日本は社会や文化が大きく変化し、人々はエネルギーを映画に注いだ。劇中で司葉子さんが言っていたように、黒沢と三船のペアだけでなく、全員がその時代の始まりと終わりを経験したんだよ。特別だったんだ。それはいつも起こることではない。世界の各地であったように、映画の特別な時代というのがあって、あの時、日本でまさにそれが起きていたんだ。

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