オールAのジレンマ

長いことアメリカで働いていると、同じようにアメリカで働いている日本人の方とお知り合いになる機会がよくあります。渡米の理由は皆さまざま。アメリカ留学後に現地に残って働いている方や、日本から駐在員として来ている方、アメリカ人と結婚した後にこちらに残って生活している方など……。

背景は多種多様ですが、私が知っている限り、日本人の方は概して真面目な気がします(もしくは、イージーゴーイングなアメリカ人と比べるとそう見えてしまうから?)。また、日本人に限らずとも、在米アジア人は基本的にみな教育熱心で真面目なようで、学校での成績優秀者リストなどを見るとアジア系の名前がずらっとトップに並んでいることも珍しくありません。アジア系アメリカ人のジョークで、「お前はC-sia人でもB-sia人でもなく、A-sia人だろう? なら学校の成績はオールAで当たり前だ!」と言われることもあるとか。

優等生であり続けるのは大変。でも逆にいうと、学校での勉強や課外活動などをまじめに頑張ってよい成績を取り続ければいいので、何を目指せばいいのかは非常にクリアです。でも社会に出るとそうもいきません。すべての業務に教科書があるわけではないので、自分で切り開いて解を見つけていかなければいけません。上司の依頼が理不尽でも対応しなければいけないこともありますし、どう考えても無理な締切日に間に合わせないといけない場合もあります。学校で学んだオールAの取り方が、必ずしも実社会で通用するわけではないのです。

私の会社では通年で人を採用しており、私も新入社員の採用面接などに携わる機会があります。その際に必ず目を通すのが申込者の履歴書なのですが、そちらを見ると、優秀な学校を卒業したからといって必ずしもバラ色の職歴があるわけではないのに気づきます(もちろん素晴らしい方もたくさんいらっしゃいますが)。

先日面接した人は、某有名大学の修士課程を2つも修了しており、今はPhDを目指しているという方でしたが、なんとなく挙動不審な方でした。話していても目を合わせないというか、落ち着きがないというか。職歴も1~2年で勤務先を点々と変えており、今はTempの仕事でもいいので求職中という人でした。でもGPAは3.99。学校では申し分なくトップです。人って分からないなと改めて思いました。

長年社会で働いていて痛感するのが、ソフトスキルの重要さです。もちろん学校での成績も大事ですが、人と人を繋ぐコミュニケーション能力や、助けてもらった時にThank youと言えるような、基本的なことがとても大事だと思います。以前、誰に対してもThank youをまったく言わない社員がいたので、言ったほうがあなたのためにもいいと思うよと提言したら、「それって私のキャラじゃないので」と断られました。この人本当に損しているな……と思ったのを覚えています。

オールAを達成しようとするあまり、完璧主義を貫くのも時として困りものです。会社での資料作成も、本当に毎回すべてを100%完璧に完成させようと思ったら、いつまでたっても終わりません。社内でもときどき「まだ完璧に終わっていませんので」と言って締め切りに間に合わない社員を見かけますが、こちらとしては100%完璧な資料を1週間後に提出してもらうよりも、90%の出来の資料を今出してもらった方がはるかに助かるのです。

最近IT業界で浸透し始めている、「アジャイル(Agile)アプローチ」という進め方を知っていますか? 短い開発期間内で対応できる内容をまとめて提出し、とりあえず試してみるというアプローチです。当然テスト中にさまざまな問題点が浮き出てきますので、それをそのつどすばやく(Agile)修正し、機能を向上していくという進め方です。未完成なのに提出? 最初はびっくりしましたが、スピード重視な昨今では、こういった進め方も重要なのかもしれません。

学校ではオールAを目指せと言われ続け、でもいざ社会ではそれが必ずしも通じない……。難しいジレンマではありますが、臨機応変に対応できる人間でありたいですね。

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北村祐子 (Yuko Kitamura)

北村祐子 (Yuko Kitamura)

ライタープロフィール

在米23年。津田塾大学を卒業後に渡米し、ルイジアナ大学でMBAを取得後、テキサス州ダラスにある現在の会社で勤務すること20年目。ディレクターとして半導体関係の部品サプライチェーン業務に関わるかたわら、アメリカで働く日本人女性を応援しようと日々模索中。モットーは、「鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス」。

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