米国の電気自動車(EV)市場は拡大しているが、直近の四半期は販売の伸びが鈍っており、一部の自動車メーカーではディーラー在庫が大幅に増えていることが業界データで分かった。
■1年前の3倍
ロイターによると、自動車関連サービスのコックス・オートモーティブは、全米の車両販売店が現在抱えるEVの在庫は1年前の3倍を超え、9万2000台以上だと報告している。新車全体だと在庫は前年比で74%の増加だという。
ただし、EVの在庫もモデルによってかなりの差がある。ゼネラル・モーターズ(GM)の「キャデラック・リリック」は2023年6月末時点で50日分と業界平均(52日分)を下回っているが、フォードの「F150ライトニング」は86日分、「マスタング・マッハE」SUVは113日分に積み上がっている。これに対してフォードは、コックスの数字は誇張されており、マッハEの在庫は83日分で、ライトニングは輸送中の車両を含めて58日分と反論している。
またコックスによると、フォルクスワーゲン(VW)の「ID.4」SUVはディーラー在庫が131日分に上る。VWの米国販売部門は「サプライチェーンの局所渋滞が緩和され増産が可能になったため、最近は米国でのEV販売が若干軟化している」と説明。同社はID.4の強い需要を見込んでいるが、市場が望んでいる全輪駆動バージョンが不足しているほか、EVモデルの税控除適用に関して消費者が混乱し、購入をためらっている影響もあると見ている。米国製のID.4は、7500ドルの購入時税控除の対象となっている。
■メーカーは値引きで需要喚起
テスラやリビアンなどの新興EVメーカーは、ディーラーを持たず、在庫データも発表していない。テスラは7月上旬、23年4~6月期の世界の車両引き渡し台数が予想を上回ったと発表したが、その後開始した顧客の紹介による値下げなど、多様な割引や優遇を提供して需要を喚起している。
従来の自動車メーカーはほとんどのEVモデルが赤字だが、テスラは生産コストの優位性を活用している。コックスによると、テスラの値下げや競合他社の追従値下げにより、4~6月期のEVの平均販売価格は5万3438ドルになっており、ピークだった22年6月(6万6390ドル)から19.5%下落している。
自動車メーカーは、テネシー州にあるフォードの広大な複合施設「ブルーオーバル・シティー」のような北米の新しいEV生産能力を支えるためにEVの販売てこ入れを図っているが、厳しい競合や政府の規制圧力に直面している。バイデン政権は、事実上32年までにEVの販売構成比を3分の2まで高めるよう米国の自動車メーカーに義務付ける排ガス基準案を発表。GMや米国のほとんどの自動車メーカーを代表する業界団体は、この案を非現実的と見ている。
コンサルティング会社アリックスパートナーズの自動車アナリスト、マーク・ウェイクフィールド氏は「値下げは需給バランスの反映で、メーカーは販売台数が伸びなければ価格を下げることになり、テスラの場合はそれを実行するだけの余裕がある。米国のEV需要が頭打ちになったと断言するのは早計で、われわれはこれを不安定な成長と見ており、成長は継続している」と話した。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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