電気自動車(EV)大手テスラは、長年広告を嫌ってきたが、数カ月前からさまざまな有料メディア・プラットフォームへの広告支出を増やしている。
◇大きな方向転換
ウォールストリート・ジャーナルによると、テスラは現在、フェイスブック、インスタグラム、そしてイーロン・マスクCEO自身が所有するX(旧ツイッター)で動画広告キャンペーンを展開しており、自動車売買サイトCars.comのランキングを引用して「モデルY」を「最もアメリカ製の車」と宣伝している。
これは、19年に「私は広告が嫌いだ」と短文投稿サイトでつぶやき、長い間「製品が優れていれば広告は不要」と主張してきたマスク氏にとって大きな方向転換を意味する。テスラはグーグルやアップルなど他の技術系企業と同様、これまでアーリーアダプター(新しい商品をいち早く採用する消費者層)やシリコンバレーの技術者からの口コミ、CEOの知名度の上昇によって自社ブランドの認知度を高めてきた。最近の財務報告書でも、テスラに関するメディア報道が同社の主要な販促要因となっている。
しかし、2023年5月のテスラの年次株主総会でマスク氏は態度を変え、株主の1人が「富裕層向けに実用性の低いスポーツカーを造っているという認識に対抗するため広告を検討すべき」と提案したところ、氏は「少し試して様子を見よう」と答えた。
◇総会前後で顕著な変化
広告追跡会社メディアレーダー傘下ビビックス(Vivvix)の試算によると、テスラが23年に米国でデジタル広告に投じた額は約640万ドルで、22年の約17万5000ドルからは劇的に増えたが、ほかの自動車メーカーに比べるとわずかだった。ゼネラル・モーターズ(GM)の場合、世界的な広告と販促活動で23年に36億ドルを費やし、同年の販売台数(619万台)で割ると1台当たり約580ドルだった。
デジタル広告モニター会社センサー・タワーによると、テスラの広告費の大半は動画投稿サイトのユーチューブに使われているが、最近はメタ傘下のフェイスブックとインスタグラムや、Xにも動画広告を掲載している。
広告追跡会社などによると、テスラは近年、密かにウェブサイト上で広告を購入する実験を行っていたが、株主総会以後はオンライン広告の存在感が大きく伸びているという。グーグルの広告管理機能「Ads Transparency Center(広告の透明性について)」によると、マスク氏の発言から数週間後、テスラはグーグルの検索広告を購入し、自動車やソーラーパネルなどの製品の宣伝を始めたという。マスク氏が公然と攻撃し、あざけり続けているマーク・ザッカーバーグCEO率いるメタでも、4月初めからプラットフォーム全体でテスラ関連のターゲット動画広告が購入されている。
投資会社ロスMKMのアナリスト、クレイグ・アーウィン氏は、EVに対する消費者需要の伸び悩みとEVメーカー間の競争激化がテスラを広告に駆り立てていると見ており「彼らは非常に特別な自動車会社とはいえ、自動車会社であることに変わりない。広告を出して認知度を最大に高め、あらゆる販売機会を狙う必要がある」と話している。テスラが次の成長の波に乗るには大衆市場の消費者を捉える必要があり、そのためには広告にもっと資金を注ぎ込む必要があるようだ。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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