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第14回 黒字なのにお金がない!? 〜キャッシュフローの正体〜

舞台は馴染みの居酒屋Fuji。いつものカウンター席でタジマ君が珍しく深刻な顔でビールを見つめています。

タジマ君:先生……ちょっと聞いていいですか。ウチの会社、売上も伸びてるし、利益も出てるんです。でもなぜか、手元の資金がカツカツで……これ、なんでなんでしょう?

ミゾグチ先生:あー、いよいよ来たね。それは”黒字倒産予備軍”の典型的な悩みなんだ。

タジマ君:えっ!?黒字なのに倒産って、どういうことですか!?

ミゾグチ先生:それを理解するために必要なのが”キャッシュ・フロー”なんだ。タジマ君、利益とお金は同じだと思っていないかな?

タジマ君:え?違うんですか?利益出てれば、お金も増えるもんじゃないんですか?

ミゾグチ先生(苦笑しながら): ははは、それが落とし穴なんだ。利益は”会計上の数字”、キャッシュは”実際の現金”。この2つはズレることがあるんだよ。

タジマ君:ズレる……?

ミゾグチ先生:例えば、売上を計上してもすぐに現金が入るとは限らないでしょ?掛け売りなら、入金は1ヶ月後、2ヶ月後じゃないかな?

タジマ君:あー!確かに!ウチも大口の取引先、支払い遅いんですよねぇ・・・

ミゾグチ先生:ところが、その一方で仕入や人件費は先に支払う必要があるでしょ?つまり、“利益は出ていくのに現金が足りない”という状態が起こるんだ。

タジマ君:うわ……それ、まさに今のウチのことですね…

(タジマ君、思わずビールを一気に飲む)


【解説】キャッシュ・フローとは

キャッシュ・フロー(Cash Flow)とは、一定期間における現金の流入(インフロー)と流出(アウトフロー)の流れのことです。P/L上の利益とは別に、「実際のお金がいくら増減したか」を示す指標で、企業の支払能力や資金繰りの健全性を判断するために用いられます。
※ これを整理した書類がキャッシュ・フロー計算書(C/F)で、日本基準、米国基準及び国際財務報告基準において財務諸表の一つとして開示が義務付けられています。


キャッシュ・フローの3区分

ミゾグチ先生:だから”お金の流れ”を常に把握しておく必要があるんだけど、それがキャッシュ・フローなんだ。特に重要なのは営業、投資、財務の3つなんだよ。

タジマ君:営業はなんとなく分かるんですけど、投資と財務ってどういうことですか?うちの会社なんて日々の営業でいっぱいいっぱいで投資とか財務なんてやってないですよ!

ミゾグチ先生:あー、ちょっと用語が難しかったかもね。営業キャッシュ・フローというのは本業を中心とした事業で稼いだお金のことなんだ。だから、営業キャッシュ・フローはプラスであることが大前提。投資キャッシュ・フローは設備投資などに使ったお金のこと。将来のための支出だよね。財務キャッシュ・フローは借入や返済のことを指しているんだ。資金の調達と返却が主な内容だね。

タジマ君:なるほど……じゃあ営業がプラスでも、投資でドカンと使ってたら、現金は減るってことですね?

ミゾグチ先生:その通り。そういえば、前回(第13回)で話してた工場トラブル、あれの復旧で設備投資したんじゃなかった?

タジマ君:しました、しました!緊急修繕は現金で20万ドル出して、ラインを本格更新しました!

ミゾグチ先生:緊急に投資した現金20万ドルが効いたんじゃない?

タジマ君:うわ……それだ……原因はそれですね……

ミゾグチ先生:ちょっと、紙ナプキンに先月のバッファローフーズUSAの数字を整理してみようか。

ミゾグチ先生は紙ナプキンを広げ、ペンで数字を書き始めた。


【設例】バッファローフーズUSA 先月のスナップショット

① P/L(損益計算書)視点

項目 金額 備考
売上高 $880,000 前年同月比 +10%
売上原価 -$616,000 原価率 70%
売上総利益 $264,000 粗利率 30%
販管費 -$130,000
営業利益 +$134,000 営業利益率 15.2%(しっかり黒字!)

② キャッシュ・フロー視点(同じ月)

区分 項目 金額 備考
営業CF 売上入金(JDF社) +$340,000 2ヶ月前売上の回収・Net 60
売上入金(吉本貿易) +$230,000 2ヶ月前売上の回収・Net 60
売上入金(中央トレーディング) +$115,000 2ヶ月前売上の回収・Net 60
売上入金(その他卸/非日系) +$75,000 1ヶ月前売上の回収・Net 30
売上入金 小計 +$760,000 売上の90%が60日後入金という構造
仕入支払 -$616,000 原材料 Net 30
給与・経費支払 -$120,000
営業CF小計 +$24,000 利益$134Kに対し、入金遅延でほぼトントン
投資CF 新工場ライン緊急投資 -$200,000 第13回工場トラブルの緊急復旧分(現金)
投資CF小計 -$200,000
財務CF 銀行借入(つなぎ融資) +$100,000 短期の運転資金不足分
財務CF小計 +$100,000
キャッシュ純減 -$76,000

タジマ君:うわっ……P/Lだと13.4万ドルの黒字なのに、現金は7.6万ドルも減ってる……!差が21万ドルもあるんですか!?

ミゾグチ先生:そうなんだよ。これが”黒字なのにお金がない”の正体なんだ。

タジマ君:しかも、見てください先生。日系卸3社が全部Net 60で、売上の90%が2ヶ月後入金になっちゃってる……。先月の売上は伸びてるのに、入ってきてるのは前々月の少なめの数字なんですよね。

ミゾグチ先生:そう。“売上が伸びている時ほど、キャッシュは厳しくなる”のが卸売モデルの宿命でもあるんだよ。タジマ君の会社は最近JDFさんとの独占取引からオープンアカウントに移行して、吉本貿易さん・中央トレーディングさんとも取引始めたよね?売上は伸びたけど、3社とも全部Net 60だから回収サイトの構造が一気に長くなってしまったというわけ。

タジマ君:……まさにその通りです。さらにそこに新工場ラインの緊急修繕も重なって、つなぎ融資を入れてなんとか凌いでる状態で。

在庫もキャッシュを圧迫する

ミゾグチ先生:もし、最近売上が伸びているんだったら、在庫も増えているだろうから、それも現金を圧迫しているはずだよ。

タジマ君:え、在庫って資産じゃないんですか?

ミゾグチ先生:もちろん資産ではあるんだけど、在庫は売れて初めて現金になるでしょ?むしろ、在庫仕入れの支払いで現金は出ていっちゃうんだよ。

タジマ君:うわぁ、なんか、“売れてるのに苦しい理由”が全部つながってきた気がします。

ミゾグチ先生:だから経営では”利益”だけでなく”キャッシュ・フロー”を見る必要があるんだよ。利益は結果、キャッシュは生命線なんだ。

タジマ君:生命線……確かに、お金がないと給料も払えないし、仕入もできないですもんね。

改善策

ミゾグチ先生:うん、その通り。じゃあ、改善策は何だと思う?

タジマ君:えーっと……入金を早める?在庫減らす?あと、投資はタイミング考えるとか?

ミゾグチ先生:うん、いいね。「入金を早める」というのは本質的な打ち手だよ。ところで、なんで吉本貿易さん・中央トレーディングさんとも、JDFさんと同じNet 60で契約しちゃったの?

タジマ君:……あ、それなんですよ、先生。照り焼きマヨソースが大ヒットしたタイミングで両社からラブコールをもらって、嬉しさのあまり、CFのこと全然考えずに2社ともJDFさんに合わせてNet 60で契約しちゃったんです……。

ミゾグチ先生:あー、それは痛いね(苦笑)。でも逆に言えば、吉本貿易さんと中央トレーディングさんの支払いサイトを短くすることが出来たら、かなりのキャッシュフローの改善が見込めると思うけど、交渉は出来そう?

タジマ君:うーん、JDFさんは業界1位で強気だから、Net 60を動かすのはまず無理だと思います。でも、吉本貿易さんは業界2位で、もともとうちと取引したくてラブコールくれた相手なので、Net 30とかNet 45にしてもらえる余地はありそうです。中央トレーディングさんも同じく。

ミゾグチ先生:いいね。まずは交渉余地のある相手から手を付けるのが定石だよ。ただし、注意点があるんだ。“ウチが助かるから支払いを早めて”だけだと、相手にとっては自分のCFが悪化するだけで何のメリットもない。だから飲んでもらえないんだよ。

タジマ君:あー、確かに。こちらの都合だけ言われても向こうは困りますよね……。じゃあ、どうすれば?

ミゾグチ先生:何か対価をセットで提示するのが定石だね。一番分かりやすいのは”早期支払割引”。例えば「2/10 Net 60」、つまり”60日が標準だけど、10日以内に払ってくれたら2%値引きします”という契約だね。食品業界では普通に使われている慣行だよ。

タジマ君:なるほど、相手にとっては”払うのを早めれば実質的に安く買える”ってことですね。

ミゾグチ先生:そう。それ以外にも、ヒット中の照り焼きマヨソースの優先供給、新商品の先行取り扱い、共同販促への協力……バッファローフーズさんは商品力があるから、こういうカードも強いんじゃないかな。

タジマ君:そうか、ウチには”ヒット商品を持ってる”っていう強みがあるんだ。吉本貿易さんは業界2位だから、JDFさんに先んじて新商品を扱えるっていうのは魅力的に映るかもしれませんね。

ミゾグチ先生:そういうこと。“対価とのバーター”で交渉するのが大人の交渉なんだ。そして、こういう交渉に行く時に必須となる、もう一つ重要なツールがある。資金繰り表の作成だよ。

タジマ君:資金繰り表……また新キャラ出てきましたね……

ミゾグチ先生:でもこれをやれば、“いつお金が足りなくなるか”が事前に分かるんだ。

タジマ君:それ、めちゃくちゃ大事じゃないですか!先生、これからは”利益出てるからOK”じゃなくて、“現金が残ってるか”もちゃんと見るようにします!

ミゾグチ先生:いい心がけだね。経営者として一段レベルアップしたね。

締め

タジマ君:(ジョッキを掲げながら)よーし!じゃあまずは今日のキャッシュ・フロー確認ですね!

ミゾグチ先生:嫌な予感しかしないんだけど(笑)

タジマ君:財布の現金、もうほぼゼロです!でもカードがあるから大丈夫ですよね!

ミゾグチ先生:それ、“将来のキャッシュアウト”が増えただけなんだよ……

タジマ君:うわぁぁぁ!!じゃあ、とりあえず今日はビールで現実忘れます!ビール、おかわりー!!

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Tsunehisa Nakajima / Masaki Mizoguchi中島恒久/溝口聖規

Tsunehisa Nakajima / Masaki Mizoguchi中島恒久/溝口聖規

ライタープロフィール

中島恒久:(Fujisoft America, Inc. COO)
2004年に抽選永住権を取得後、渡米。ベーシストとして活動しながら飲食業、旅行業、食品卸業などで経験を積み、2015年より現職。起業の経験も持つ。グロービス経営大学院にて溝口先生から管理会計を学んだ。

溝口聖規:(公認会計士、グロービス経営大学院専任教授)
グロービス経営大学院専任教授。資格:公認会計士、証券アナリスト、公認内部監査人。書籍:「財務諸表分析 ゼロから分かる読み方・活かし方」PHP出版/MBAアカウンティング(第4版)ダイヤモンド社 連載:週刊経営財務「会計知識録~企業の会計・財務活動を解読~」

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