シリーズアメリカ再発見⑦
癒しのセドナ 大地を走ろう

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 近年「走る」ことがブームだ。健康志向の高まりに加えて、不景気で、会員制のスポーツジムに通うよりも、お金をかけずに自分の意志さえあればできるランニングに目を向ける人が増えた。家の回りや公園を走るだけでなく、ハーフやフルマラソンに挑戦する人、特に女性が急増している。
 アメリカ各地で行われる数千を超すマラソン大会の中で、「最も美しいコース」と賞賛されるのが「セドナ・マラソン」だ。2013年2月2日に開催される大注目の「第8回 The Sedona Marathon」の魅力を紹介する。(*注:情報は掲載誌発行時点のものです)

Courtesy of Sedona Chamber of Commerce

Courtesy of Sedona Chamber of Commerce

パート1
赤い岩に囲まれてマラソンに挑戦!

 セドナは、国立公園グランド・キャニオンの南に位置する、真っ赤な岩に囲まれた小さな街だ。大自然が豊かなアリゾナ州の中でも特別な場所で、大昔、先住民はここを「癒しの土地」と見なし、聖地として慈しんだ。

 現代人は、ボルテックス(vortex)と呼ばれるエネルギーが渦巻く「パワースポット」をめざしてやって来る。ベル・ロック(Bell Rock)、エアポート・メサ(Airport Mesa)、ボイントン・キャニオン(Boynton Canyon)、カセドラル・ロック(Cathedral Rock)。4つのボルテックスに囲まれたような形で存在するセドナの街は、きーんと澄んだ空気に満ちていて、旅人が残すスピリチュアルな体験談には事欠かない。

国有林を駆け抜ける

 セドナらしさを反映して、マラソンのコースもユニークだ。

 スタートおよびゴール地点は、セドナで最も景観が美しい場所の一つ。視界をさえぎるものは何もなく、キャピトル・ビュート(Capitol Butte)を前方に望む。セドナの街の約半分はココニノ国有林(Coconino National Forest)。フルマラソン参加者は国有林の中を駆け抜けることになる。そんな体験ができるのは、アメリカ広しといえどもセドナ・マラソンだけである。

 スタートしてすぐに、アップダウンが小刻みに続く。右サイドに特徴ある赤い岩が迫る。5Kと10Kランの折り返し地点を過ぎると視界は一気に開ける。100以上のハイキング・トレイルがあるセドナの中でも人気が高い、ロング(Long)、ボイントン、フェイ(Fay)の3つのキャニオンをパノラマで眺める。その奥には、雪を頂くこともあるミンガス・マウンテン(Mingus Mountain)が。

 2月のセドナは朝は冷え込むが、マラソンがスタートして息が上がり出す頃には太陽も上がり、温暖で乾燥した気候を心地よく感じるだろう。

美しさと過酷さと

セドナのあちこちに生えるサボテンPhoto © Mirei Sato

セドナのあちこちに生えるサボテン
Photo © Mirei Sato

 「最も美しい」セドナ・マラソンは、同時に「最も過酷なレース」とも呼ばれる。その理由は標高だ。コースを通じて平均標高は1300メートル、高低差は170メートル。

 ハーフマラソンの折り返し地点を過ぎたところで試練が始まる。国有林の中の未舗装のトレイルを走ることになるからだ。石ころだらけ、でこぼこで四駆車が通れば砂煙が上がる道だ。アップダウンとカーブが続き、10フィート先までしか見えない場所もある。

 しかし、これこそセドナのフルマラソンの醍醐味だ。サボテンの合間からシカやコヨーテ、リスやウサギが姿を見せることもある。赤い岩は優美で雄々しく、男性と女性のエネルギーがバランスよく混じり合うボルテックスも近くに存在する。美しさと過酷さが同居するマラソンは、この土地にぴったりだ。

 フルマラソンを走るなら底の厚いシューズは必須。主催者は、高地で走った経験がない参加者には、体を慣らすため開催2日前に現地入りするよう勧めている。

フルマラソンのコースの約半分は未舗装だPhoto © Mirei Sato

フルマラソンのコースの約半分は未舗装だ
Photo © Mirei Sato

ボランティアが支え

 セドナ・マラソンは、小さな街ならではの温かさに満ちている。前回の参加者は2000人。それに対して市民ボランティアが300人いた。2マイルごとに支援テントを設置し、仮装したボランティアがドリンクやフルーツ、ベーグルを手渡す。

 5Kや10Kを走る市民ランナーも多く、3歳の子供からシニアまでと幅広い。スポンサーはすべて地元企業。マラソン前夜にはパスタ・ディナーがあり、全米各地や海外から来たランナーたちと友好を深める。ゴール後はマッサージのサービスも。

 ホノルルやロサンゼルスなど大都市のマラソンは参加者が多すぎて、受付を済ませてスタートラインに着くだけで一仕事だ。セドナでは、大量動員された警官や沿道をぎっしり埋める観客の姿はなく、スピーカーからひっきりなしに流れる音楽もない。反対車線で渋滞する自動車の排気ガスにまみれることもない。ランナーは自然と向き合い、大地を踏みしめる自分の足音を確かめることができるだろう。

Courtesy of Sedona Chamber of Commerce

Courtesy of Sedona Chamber of Commerce

Best Western Plus Arroyo Roble Hotel

Courtesy of Best Western Plus Arroyo Roble Hotel

Courtesy of Best Western Plus Arroyo Roble Hotel

400 N. State Route 89A,
Sedona, AZ 86336
800-773-3662
www.bestwesternsedona.com
日本からセドナ・マラソン旅行ツアーで参加するランナーたちの宿泊先。セドナで一番にぎやかなアップタウンにあり、レストランや土産店を歩いて回れる。バルコニーからの眺めは格別。サウナ、ジャクージ、プールも充実。

Poco Diablo Resort Sedona

Courtesy of Poco Diablo Resort

Courtesy of Poco Diablo Resort

1752 State Route 179,
Sedona, AZ 86336
928-282-7333
www.PocoDiablo.com
マラソン前夜のパスタ・ディナーの会場になるホテル。パスタは炭水化物でエネルギーを補給したいランナーの大好物。ガーリックブレッド、サラダ、チキン、ミートボール、カップケーキも。ゴルフ場があり、夕日の時間帯は特に美しい。

Hiro’s Sushi Bar & Japanese Kitchen

Photo by Kyoko Hasegawa

Photo by Kyoko Hasegawa

1730 W. State Route 89A,
#6, Sedona, AZ 86336
928-282-8906
www.hirosedona.com
フラッグスタッフで一番人気の寿司レストランの2号店(2012年9月にウェストセドナに移転)。マラソン当日朝、日本からの参加者のために「おにぎり」を用意する。走り終わった後、オーナーシェフのHiroさんが握る寿司を満喫し、焼酎や日本酒で乾杯したい。妻でフォトグラファーのKyokoさんが撮影したセドナの美しい写真が店内を飾る。ブログ「minipe.exblog.jp」も好評。セドナで唯一日本語が常に通じる店。

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