バイデン政権が発表した中国製EVと電池に一段と高い制裁関税を課す計画は、米自動車産業の雇用を一時的に保護するが、様々な副作用も出てきそうだ。
◇EVの普及進まず
ロイターによると、米国で売られている中国製EVはほとんどないため、EVの関税を4倍の100%に引き上げても消費者に与える直接的な影響は最小限になる。米政権はまた、中国製のEV電池と電池関連部品への関税を年内に3倍以上の25%に引き上げ、グラファイト(黒鉛)、EVモーターに使われる永久磁石、その他のEV用鉱物には新たに25%の関税を追加する。
バイデン政権は4月、EVの市場シェアを23年の8%から32年までに56%まで引き上げることを目的とした新排ガス基準を発表したが、メーカー各社は、EVの普及目標達成は難しいと警告している。理由の一つは、別の規則によって、中国製部品を一定含むEVには連邦政府からの補助金が適用されないことだった。中国製の低コストの電池や電池材料を利用できなければ、EVは依然として高すぎるからだ。
また、米国からの輸入車を標的とする中国の報復関税は、年間約2万5000台を中国に輸出しているBMWのサウスカロライナ州スパータンバーグ工場や、電動SUVを製造しているメルセデス・ベンツのアラバマ州工場の労働者に打撃を与えてしまう。
さらに、貿易戦争がEV用電池や他のハードウェアのコストを押し上げ、EV全体の価格を高止まりさせる可能性もある。米運輸省によると、フォード「マスタング・マッハE」やテスラ「モデル3」のような米国ブランドのEVは、30%から51%が中国製だ。
◇中国を手本に
専門家の間でも、関税強化が長期的に米国の自動車メーカーを助けるのか、消費者の利益になるかは意見が分かれている。
「関税は重要な時間稼ぎになる」と、長年中国の自動車産業を見てきたコンサルタントのマイケル・ダン氏は言う。氏によると、EVと電池のサプライチェーンに関しては、米国は中国に5~7年遅れている。中国は1990年代から2000年代にかけて、自国の自動車メーカーを保護した。「米国は中国のやり方を一部拝借しているだけだ」。
一方、米国の環境政策を進めるためEVの導入ペースを速めるよう主張する人々は、中国のEVメーカー排除は逆効果になると警告している。
バイデン政権に気候変動対策の強化を働きかけてきた環境保護団体「生物多様性センター」のダニエル・ベッカー氏は「GM、フォード、ステランティスは、EVを製造する外国企業と競争する必要がなければEVを造らないだろう。市場はBYDに流れ、米国は70年代のように市場シェアを失うだろう」と話した。
EVは大統領選の主な争点になってきたが、民主党のバイデン氏と共和党の対抗馬と目されるトランプ氏の意見は奇妙に一致する。中国のEVメーカーを米市場から締め出すため、高い関税やその他の貿易障壁を利用することだ。対中国強硬派のタイ米通商代表が表明したように安価な中国製品が流れ込み「、米企業の生産能力が失われれば、再構築するのは難しい」からだ。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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