中国の電気自動車(EV)大手BYDは、メキシコ中部または北部の拠点近くに組み立て工場を建設するため、地元州当局との合意を目指している。ところがメキシコ政府は、トランプ次期米政権の保護主義的な通商政策を考慮してBYD工場の誘致に慎重な対応を迫られている。
◇板挟みの窮境
ウォールストリート・ジャーナルによると、メキシコはすでに重要な自動車生産拠点で、一般的には雇用をもたらす外資を歓迎し、テスラと並ぶEV大手BYDの投資は通常なら歓迎するところだ。しかし、トランプ次期大統領はメキシコとカナダからの全ての輸入品に25%の関税を課すと表明しており、メキシコ政府関係者は、BYDの工場がトランプ氏やその周辺の通商タカ派に「メキシコは米国にモノを売りたい中国企業のパイプ役になろうとしている」という誤ったメッセージを送ることを懸念している。
トランプ氏は、移民問題やフェンタニル(合成ピペリジン系オピオイド)の密輸問題でもメキシコを批判の的にしている。2025年には第1次トランプ政権時代に成立した米国・メキシコ・カナダ自由貿易協定(USMCA)の延長交渉も始まるため、メキシコは中国製品の通路ではないと、米カナダ両国を説得する必要がある。
メキシコ自動車工業会(AMIA)を率いた経験のあるコンサルタントのエドゥアルド・ソリス氏は「今は中国からの投資に細心の注意を払うべき。メキシコは北米の信頼できるパートナーという名刺を出す必要がある」と話す。トランプ氏は大統領選挙中、中国企業がメキシコで造った車には200%の関税を課すと脅しており、カナダ政権幹部らはメキシコと一線を画してトランプ氏と足並みをそろえようとしている。
◇監視の強化
メキシコは、USMCAによって世界第4位のライトビークル輸出国となった。メキシコの工場は、USMCAの原産地規則強化によってアジア製の部品を使った車の生産はできなくなったが、自動車メーカーはメキシコ、米国、カナダ製の部品使用を拡大し、メキシコでの事業拡大を進めている。
米国の輸入市場におけるメキシコのシェア拡大は監視の強化を意味し、USMCA協議の主な争点は「いかに北米貿易圏を中国の影響から守るか」になるとみられている。イエレン米財務長官は23年にメキシコを訪問し、メキシコが中国の投資をより制御できるようにする投資審査の仕組みについて話し合った。この案件は、より多くの地域産品を要求する案とともにUSMCA見直しの一部となる可能性が高い。
メキシコは、「中国の裏口になっている」という米国とカナダの懸念は見当違いであり、中国からの投資はメキシコよりも米国やカナダ向けの方がはるかに多いと指摘。メキシコに進出している米国の自動車メーカーも中国から部品や車両を大量に輸入しているため、中国の締め出しに向けた措置は3カ国の間で公平であるべきだと主張している。
ここ数年で中国のEVメーカー首位に急成長したBYDは、世界中に進出しており、23年後半にはメキシコで工場用地の物色を始めた。当初は米市場向けに車を製造できると考えていたが、地政学的緊張の高まりを受け、計画を調整して今はメキシコに重点を置いており、ブラジル工場とともに中南米市場を標的にできると考えている。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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