シリーズアメリカ再発見㊳
ニューオーリンズ
水と食と生と死と 〜後編

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

映画「イージー・ライダー」のクライマックスシーンが撮影された墓 Photo © Mirei Sato

映画「イージー・ライダー」のクライマックスシーンが撮影された墓
Photo © Mirei Sato

 全長2230マイル。ミネソタ州から流れ出たミシシッピ川は、ニューオーリンズでメキシコ湾に流れ込む。河口で大きくターンして、その形が三日月のように見えることから、「クレセント・シティー」の愛称がついた。
 街の大部分は、海抜から数フィートも低い。ここでは、死はいつも、背中合わせでそこにいる。
 フレンチ・クオーターのすぐ外にあるセントルイス墓地。18世紀後半、黄熱の流行で大量に死んだ人を葬る場所としてできた。当時は、蚊が原因だとはわからなかったそうで、夏になると何千人もが死んだ。
 水に囲まれて土地が少ないから、墓地もゆったりとはつくれない。小さな墓に何百人もいれられた。墓石のなかには、下半分が地中で水に沈んでいるものも。大雨が降ると棺桶が浮き上がってくることさえあるという。
 墓地を案内してくれたガイドのデイビッドさんは、ミシシッピ川とレイク・ポンチャートレインにはさまれたレイクビュー地区で育った。「子供の頃、遊んでいて何かが割れる音がして驚くと棺桶だった、なんてことがよくありましたよ」
 地中ではなく「地上」に埋葬したスタイルの墓もある。ニューオーリンズの夏、特に6〜8月は気温が上がり、墓の中は華氏400度になる。天然オーブンで「火葬」したらしい。
 古い墓石には、故人の名前や功績がたいていフランス語で彫ってある。地名からも明らかなように、ニューオーリンズは17世紀、フランスの植民地として開拓された。墓碑に記された出生地をよく見ると、フランスだったりジャマイカだったり。墓はニューオーリンズの移民史も映し出す。
 伝統的に、亡骸はジャズで葬送する。遺族にブラスバンドが寄り添い、棺をかついで墓地へはいるときは、スローなスピリチュアルを演奏する。墓地を出るときは、アップテンポのマーチに。再び生をいつくしみ、謳歌する。
 セントルイス墓地には、政治家や地元の名士、歴史に名を残した市民が眠る。一番目立つのは、ブードゥーの司祭、マリー・ラボーの墓だ。供え物の数が、ハンパではない。アメリカでもっとも訪問者が多い墓がここなのだという。2番目はエルビス・プレスリー、3番目がジョン・F・ケネディ大統領。
 ミュージシャンの墓は意外と少ない。「ニューオーリンズ生まれのミュージシャンは、ほかの土地で死ぬことが多い。ここにはほとんど埋葬されていませんよ」とデイビッドさんは言っていた。
 


 

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