シリーズ世界へ! YOLO③ タイ〜水と仏の国 前編
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2011年7月5日
聖水、冷水、泥水の恵み
お堀の周りには、バケツや、リュック型をした背負うタイプの水鉄砲を売る店がぎっしり並び、子供たちが待ち構えて、バイクや徒歩で通る人たち目がけて放水していた。どう見ても、泥が混ざったお堀の水が「給水源」だ。
「風邪を引きたくない」「外国人は狙い撃ちされそうだし…」。大半が尻込みする中、私を含めた4人と、ガイドのダーさんが、ジープの荷台に乗った。
水を満タンにした大きなバケツを二つ、荷台にセットし、水鉄砲と小バケツを買い込んで出発する。前後左右の車も皆、同様の出陣状態だ。
最初は挨拶程度に軽く水をかけ合っていたが、お堀に近づくにつれ、私たちのうちの一人が、興奮したカウボーイ状態に変貌してしまった。誰彼構わず撃ちまくる彼女は、背が高い上に、なぜか一人だけ用意周到に防水ジャケットを着ている。360度からの仕返し弾は、背が低くノースリーブに短パンという無防備な3人が、ひたすら受けることになった。
お堀の側から飛んでくる泥水は、冷たいばかりか、目や耳に入ると痛い。懸命によけていると、追い越し車線の側から、恐ろしい冷たさの水を浴びせられた。見ると、大きな氷のかたまりがバケツに入っている。骨の随までしみるとはこのことだ。
それに比べたら、「自然な」泥水は、ホットシャワーに感じる。氷水を浴びるたび、自分たちのバケツの水をかぶったり、あえて「泥水をかけて」とお願いしたりして体を温め、1時間以上のパレードを乗り切った。
水かけは、タイ全土で行なわれる。首都バンコクを含め、滞在中あちらこちらで遭遇した。それでも、ユーチューブで見たような完全なる「無礼講」はなかった。一部の繁華街では、音楽に乗って酔っぱらって水を浴びせ合う人たちも見かけたが、大半は悪戯っぽい笑顔の子供たち。「ちょっといいですか」と言いたげに寄ってきて、足下に水をピチャッとかけて、恥ずかしそうに逃げて行く女の子もいた。こちらが少しでも嫌そうな顔をすれば、誰もかけない(ただし、パレードは別)。
パレードの翌朝、ホテルで読んだ新聞には、「バンコク市内で3471人が集まって、水鉄砲を10分間発し続け、ギネスブック記録を達成」という記事と、「水かけ祭り期間中の交通事故死者は59人、負傷者は976人、去年から半減」という記事が、大きく並んで載っていた。
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