シリーズ世界へ! YOLO⑫
行っちゃいました! 夢の南極 (Antarctica)
〜前編
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2013年8月20日
Day 2 ︱ 7 December 2012
- 記録時間1900hrs
- 緯度58˚01′ S/経度64˚32′ W
- 針路170˚/速度11.3 knots
- 気圧975.9 hPa/風速20 knots E
- 気温2℃/海面温度3℃
「Welcome to the Drake」。ドン隊長のアナウンスで目が覚めた。ドレイク海峡(Drake Passage)とは、南米大陸と南極の間に横たわる冷たく黒い水のことだ。穏やかなビーグル水道と打って変わって、「洗濯機」の愛称があるドレイクは、ぐるぐると回転するように吹く強風で大荒れに荒れる。
私たちの船は朝4時、魔のドレイクに突入した。最高で10メートル近い波が打ちつけ、船は左右に激しく揺れた。船室のものが転がり、机の上のコップがガタガタと音を立てる。
8時過ぎに食堂へ行くと、朝食に出てきたのはスタッフ以外、私と数人だけ。昨夜の就寝前、通路の手すり1メートルおきに茶色の嘔吐袋が置いてあったが、それがだいぶ消えていた。あとで聞くと、乗客の3分の2以上がお世話になったそうだ。
船酔いの恐怖をさんざん読んでいた私は、乗船の数時間前から酔い止めパッチを耳の後ろに貼っていた。出発前日にはウシュアイアの料理店で、ドレイク周辺の深海に住む魚メルルーサを食べた。そうしておけば自分と海が一体になって免疫ができるのではないか、という根拠のない験担ぎだ。そのおかげか、ベッドの中で揺れは感じたが、赤ちゃんをあやすゴロンゴロン人形のような気持ちでむしろゆっくり眠れた。
南極へ着くまでには、2日かかる。その間、船の中ではレクチャーが続く。南極の生態系や氷の種類、ペンギンの産卵、温暖化の影響などについて学んだり映画を見たりする。講師は、動植物学者のジョン・カークウッド博士。オーストラリアの海洋科学調査隊に同行して以来、30年以上南極に来ている。科学や生物の授業は大嫌いで居眠りの思い出しかない私が、大まじめでノートをとった。
フォトグラファーによる講習もある。こちらはなんと日本在住で北海道の大自然に生きる動物たちを撮り続けているマーティン・ベイリーが指南。せっかく来たからにはいい写真を撮りたいと思っている「素人」たちにとって、心強く、ありがたい。
船は相変わらずゴトゴト揺れ、ジョン・バリー船医とアシスタントが大忙しで、ピルを握りしめ船室から船室へ走り回っていた。
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