シリーズ世界へ! YOLO⑫
行っちゃいました! 夢の南極 (Antarctica)
〜前編
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2013年8月20日
Day 5 ︱ 10 December 2012
- 記録時間1900hrs
- 緯度64˚50′ S/経度62˚32′ W
- 針路At anchor/速度At anchor
- 気圧973.3 hPa/風速calm
- 気温8℃/海面温度0℃
今日も素晴らしい天気だ。空も海もロイヤルブルーに輝いている。ゾディアックに乗り込み、クーバービル・アイランド(Cuverville Island)へ。ここはジェンツー・ペンギンの島だ。大ヒットしたアニメ映画「ハッピー・フィート」の製作者はこの島からインスピレーションを得たそうだ。
島の両端にあるコロニーと海岸を結んでペンギン・ハイウェイが縦横に走り、その上をジェンツーたちが駆けずり回っている。上陸してうろうろする私たち人間になどお構いなし。時々「なんだよこいつら」という感じで立ち止まり一瞥をくれることもあるが、ほとんどは自分たちの生活で手いっぱい。「あー忙しいったら忙しい!」。そんな声が聞こえてきそうだ。
それも当たり前。短い夏の間に、身繕いして求愛して、卵を産んで巣を作り、子育てもしなければならないのだから。
ハイウェイの交差点で、にらみ合ったり、道を譲り合ったり。道路からはずれて深い雪にスポッとはまり、ツルッと転んでお腹から滑り降りることもある。お腹が出ているわりには、すごい脚力と筋力だ。
海岸では水泳教室でもやっているのか。次々にジャンプしていく元気なのもいれば、おっかなびっくり足を浸しているだけのもいる。
かわいくてユーモラスな顔つきのチンストラップに比べて、ジェンツーはちょっと生意気、ふんぞり返った態度が見えて面白い。島中にギャーギャーと鳴き声が響く。求愛していたかと思うと、突然お尻をぴゅっと突き出してウンチをはき出す。岩にこびりついた糞の臭いはかなり強烈だ。そのまま船室に持ち帰ってしまうと大変なことになるから、甲板で靴の底をしっかり洗い流すのが私たちの日課だ。
人間がペンギンにことさらの愛情と親近感を抱くのは、たぶん自分たちとよく似ているからではないだろうか。
せっせとまじめに小石を運ぶペンギン。一つ積み上げて、後ろを向いてもう一つくわえているすきに、「お隣さん」のペンギンがすっと盗む。まじめなペンギンは、働いても働いても巣ができ上がらない。おかしい。気づいて大げんかが始まる——。そんなドラマがあちこちで見られた。
しかしちょっとでも卵から目を離そうものなら大変だ。岩の上からスクア(トウゾクカモメ)がじっと狙っている。滑稽で過酷で、ペンギンの一生もサバイバルの連続なのだろう。
船に戻った。休む間もなく甲板に呼ばれた。南極半島でもとりわけ美しいゲルラッシュ海峡(Gerlache Strait)だ。霜降り牛のような雪山にはさまれた狭い航路を、ゆっくりと船が進む。水面に映るリフレクションが素晴らしい。目の奥までキーンと冷えるような美しさだ。
「来てよかったね」「船酔いに耐えた甲斐があった」。甲板に笑顔と安堵が広がった。魔のドレイク海峡は、南極へ行くための通過儀礼、まさに「パッセージ」だったのだろう。
船の先にカヤック・チームが見えた。一行のうち体力があって冒険好きの10人はゾディアックで上陸せず、カヤックで南極を楽しんでいる。甲板から皆で手を振った。
ランチの後、ニコ・ハーバー(Neko Harbour)へ上陸した。ここには活発なグレイシャーがある。かなりの急斜面を登山して、高台のふちに腰掛けた。待つこと約1時間。もう諦めて下山しようかという時、ドドドーンと轟音がして雪の棚が崩れ落ちた。氷のしぶきが上がり、波が海岸に押し寄せる。その輪はすぐに静まり、水面はまた動かなくなった。
海岸へ戻ると、ジェンツー・ペンギンの群れが忙しく動き回っていた。むき出しになった岩肌に緑のコケが生い茂り、アークティック・ターン(キョクアジサシ)が巣を張ってヒナ鳥にエサを与えている。
南極は、夏まっさかり。グレイシャーがまた一つ、音を立てて落ちていった。
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