シリーズ世界へ! YOLO⑫
行っちゃいました! 夢の南極 (Antarctica)
〜前編

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 


 

Day 4  ︱  9 December 2012

  • 記録時間1900hrs
  • 緯度64˚25′ S/経度61˚47′ W
  • 針路317˚/速度6.6 knots
  • 気圧979.9hPa/風速7 knots SW
  • 気温0℃/海面温度0℃

 朝目覚めて甲板へ出ると、そこは別世界だった。太陽が差し込むごとに、グレイシャー(氷河)が輝く。ハンバック・ホエール(ザトウクジラ)の群れが、船の前を泳ぎ回る。「南極半島へようこそ」。そう言っているかのようだった。

 朝食を食べると、準備をして最初の上陸になった。どれぐらい寒いのか分からない。日焼け止めを塗り、着れるものはすべて着込んで甲板に出てみると、皆わりと軽装である。私だけがモコモコしていたが、見た目は気にしていられない。カメラや荷物は濡れてもいいようにビニールでぐるぐる巻きにして、ゾディアックに乗り込んだ。

 最初の上陸先は、ハイドルーガ・ロックス(Hydruga Rocks)だ。ここにはチンストラップ・ペンギン(アゴヒゲ・ペンギン)の大きなコロニーがある。岩といっても山であり、膝上までズボズボと雪にはまりながら結構しんどい登山だが、その先に喜びが待っている。
 じゃっかん平らで、氷が融け、岩と土がむき出しになったところに、チンストラップがわんさかいた。アゴの下から側頭部へ、すっと黒い線が入って、ひもつきゴム帽子をかぶっているようなユーモラスな顔つきだ。

 ペンギンは大半を水の中で過ごす。陸に上がるのは卵を産み育てる時だけで、それは氷がじゃっかん融ける夏、まさに今だ。

 「しんどい登山」と書いたがペンギンも同じ急斜面を同じ距離登ってくる。彼らが通る道は決まっていて、海岸からコロニーまで数本の「ペンギン・ハイウェイ」ができている。小さいが強靭な足でしっかり踏みならされ、スキー板で滑った跡のようだ。ここを何度も往復して、巣作りに必要な小石や、海に潜って獲ったエサをコロニーへ運ぶ。
 私たちもそこを通れたらどんなにラクかと思うが、それはできない。忙しいペンギンたちの邪魔にならないよう、最低でも数メートルは離れてそっと観察する。

 チンストラップの王国にはいろいろな訪問者がやってくる。岩陰でウェッデル・シールの赤ちゃんがすやすや寝ているかと思えば、3匹のジェンツー・ペンギンが上陸。悪巧みをするような目つきで、ギョロリとあたりを見回している。
 

 
 午後は雲一つない快晴になった。船に戻ってランチを食べた後、再びゾディアックに乗り込み、ポータル・ポイント(Portal Point)へ。ここは島ではなく南極大陸と地続きになるので、本当の意味での「南極上陸」だ。
 私たちの中には「世界7大陸制覇」が目的でこのクルーズに参加した人もいたから、ゾディアックを降りて雪の大地を踏みしめるや、感動の声があちこちで上がった。アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米、南米、オセアニア、そして南極。ここに来るまで考えてもいなかったが、私もこれで全部制覇したことになる。皆で、指を7本立てて記念撮影した。

 雪の急斜面を登る。一息ついて後ろを振り向くと、真っ青な空と美しい湾が広がっていた。海に向かってまっすぐドスンと落ちるように立つ氷壁。センセーショナルとしか言いようがなかった。

 初期の探検家たちは、このポータル・ポイントから南極点へ向かった。戻らなかった人もいる。地球上で最も高く、最も冷たく、最も厳しく、最もマジカルな大陸がこの先にある——。言葉もなく、私たちはただ目の前の雪山を見つめていた。

 夕暮れの南極をゾディアックでクルーズした。氷山の合間をぐるぐる回る。それは氷の回廊にも、氷の墓場にも思えた。一つとして同じ形のものはない。オペラハウス、水を飲む白鳥、老婆の顔、魔女が住む館に見えたりする。どんなアーティストもかなわない。

 水って無色透明ではないんだ、と驚いた。真っ青だったり、エメラルドグリーンだったり、甘い水色だったり。世界のほかのどの海でも見たことがない色と光を放っていた。

 船に戻る。サーモンとチョコレートプディングのディナーを食べていると、ドン隊長のアナウンスで甲板に呼び戻された。船のへさきにオルカの一家が顔を出していた。
 なんとすごい1日だったことだろう。まだ初日なのに!
todays_quart

 


 

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