第60回 犬の生きる力
文&写真/寺口麻穂(Text and photos by Maho Teraguchi)
- 2013年9月5日
13年のシェルター活動歴で出合った犬の数はきっと何万匹。みんないろんな思い出を残してくれるのですが、中でも特別心に残った犬のうちの一匹「ミア」。今回はさまざまな問題を抱えてやってくる、シェルターの犬のお話です。
悲しい別れ
今年6月にミアという8歳のメスのピットブルがシェルターにやって来ました。ミアは7年間老夫婦と暮らしてきましたが、おじいさんは数年前に他界し、おばあさんも老人ホームに入ることになりました。老人ホームにミアを連れていけません。周りに引き取ってくれる人もいなかったのでしょう。ミアは最後の家族だったおばあさんに連れられシェルターに捨てられました。
それから2日間、ミアはまったく同じ場所から動きませんでした。毛布の上に体を丸め背中を向けたまま、食べ物も食べず、水を飲んだ形跡もなく、トイレも行きません。あまりの落胆に遮断状態でした。3日目、やっとの思いでケージから出すことに成功。それでも最初は警戒心が強く、体はがちがち。しっぽを後ろ足の間に入れ、目を大きく開け、恐怖で一杯の心境を語っていました。それからもミアのケージに何度も足を運びました。だんだん彼女が心を開き、打ち解けていくのが分かりました。私がケージの前に行くとすっと立つのです。でも、食べ物と薬だけは絶対に食べません。見る見るうちに痩せていき、体も弱り始め病気になりました。結局「友達」と認めたのも私ともう一人のスタッフだけ。ほかの人が近づくとがちがちに警戒します。なんだかもう彼女の中で人生をあきらめたと言っているようで見ていて本当に悲しくなりました。その老夫婦も7年前にミアを飼い始めた時は、最後がこんな悲しい形になるとは思わなかったのでしょう。
愛される力
数日後、奇跡が起こりました。ミアにセカンド・チャンスがやってきたのです! 正直なところ、ミアが引き取られる確率はかなり低いと思っていたので心がずっしり重くなり、現実の酷さと難しさ、自分の無力さ、いろいろ考えさせられていました。そんな時、うれしいニュースが舞い込みました。ミアを引き取ってくれるというグループが現れたのです!
ミアが去る日、最後のデートをしようと近くの公園に出かけました。するとどうでしょう。ミアが初めてリードを引っ張りぐんぐん歩きだしました。「早く!早く!」とでも言っているかのように。その元気に驚いていると、公園に着くなり今度は芝生の上をうれしそうに走りました。あのミアが走っている。驚きでした。公園のベンチで私になでられながらミアは笑っていました。きっと自分の身に何が起こっているのかわかっていたのだと思います。ミア自身も「私はまだまだ生きたいんです」と言っているようでした。
長年一緒に過ごした家族に捨てられた直後のミアは全く何も受け付けようとせず、自分の命をすっかり見捨てているようでした。それから少しずつ心を開いてくれたミア。彼女を見ていて思いました。愛されている、大切にされているということを感じることで「もう一度」という力が湧き出すことを。ミアは家族とは離れ離れになってしまったけど、この世の中にまだ自分のことを愛し、大切にしたいと思っている人たちがいることをしっかり感じてくれたのだなと。そして、それが「生きたい」という力になったのだなと。しかし、残念ながらみんながミアのようにチャンスをつかめるわけではありません。ミアが引き取られていった日も数匹の動物たちが安楽死させられました。
次回は、「看取るということ」についてお話しします。
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