シリーズ世界へ! YOLO⑬
行っちゃいました! 夢の南極 (Antarctica)
〜後編

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

"Want a Kiss?"=6日目、ピーターマン・アイランド Photo © Mirei Sato

“Want a Kiss?”=6日目、ピーターマン・アイランド
Photo © Mirei Sato

 キャンプは無事終了。熱いシャワーと熱いコーヒーが身にしみた。パラダイス・ハーバーを後にして、船はニューマイヤー海峡(Neumayer Channel)を通り抜ける。穏やかで美しい朝だ。

 最初の上陸先は、ポート・ロックロイ(Port Lockroy)。1960年代までイギリスの観測基地があった場所で、今はイギリスの南極歴史遺産トラストが管理している。
 ここでパスポートに記念のスタンプを押してもらうのが、一番の目的だ。南極はどこの国家にも属さないから、「入国」「出国」の手続きはない。クルーズの出港地ウシュアイア(Ushuaia)を離れる時にパスポートに「アルゼンチン出国」のスタンプが押されたが、あとは解散地のプンタ・アレナス(Punta Arenas)から出る時に「チリ出国」を押されるだけだ。だから、ここでのスタンプが「南極に行った」という唯一の証拠になる。ペンギンの絵の大きくてかわいいスタンプだった。

 ギフトショップを兼ねた郵便局があり、ポストカードを買って投函すると、フォークランド諸島およびイギリスを経由して、世界中どこへでも1ドルで届けてくれる。収益は同トラストの運営資金になる。

 昔の基地の小屋を保存した小さなミュージアムもある。今も実際に4人の隊員がここで暮らしている。そのうちの2人、フローとキャスという女性が私たちを迎えてくれた。
 「最近は極地へ行く隊員に女性が増えている」と聞いて、嬉しくなる。普段は水道水もない生活だから、私たちのようなクルーズ船が来ると、たまに熱いシャワーを浴びさせてもらうのだそうだ。

 ロックロイは、イギリスの基地ができる前は捕鯨船の基地だった。それを示すように、隣りの島には大きなクジラの骨が残っている。骨の周りには、モノ珍しそうに眺めるジェンツーや、時折大きく伸びをしながら寝転がるウェッデル・シールがいた。

 船に戻る。寝不足の「キャンプ組」は、午後は昼寝といきたいところだが、ルメール海峡(Lemaire Channel)がそれを引き止めた。5日目に通ったゲルラッシュ海峡(Gerlache Strait)に次いで美しい場所といわれている。
 そそり立つグレイシャー、シュークリームのような雪山…。船のへさきに立ち、南極が私たちの目の前を通り過ぎていくのを、ただ見つめた。

 夕方、ピーターマン・アイランド(Petermann Island)へ上陸。ここにはアデリー・ペンギンの大きなコロニーがある。
 これまで見てきたチンストラップが「アゴのヒモ模様」、ジェンツーが「赤いクチバシ」という特徴をもつのに比べると、アデリーは黒と白のツートーンでオーソドックスなペンギンだ。毛並みがツヤツヤ輝いている。横から見ると角刈りでトボけた顔つきだが、正面から見るとピカソが描いた芸術のよう。個性的でどこか品格がある。首の黒と白を分ける曲線が優美で、目の動きによる感情表現も豊かだ。

 アデリーは比較的高い場所に巣を作る。コロニーまで、かなりの距離を登山した。
 私たちに同行してくれている動植物学者のジョン・カークウッド博士によると、ペンギンの顔は、少々の男女差はあるもののほとんど同じだという。でもじっと眺めていると、1匹ずつ違って見えてくるから面白い。

 すでに出産して卵をあたためているのもいれば、売れ残るまいと焦って求愛中のもいる。懸命に甘い言葉をささやき、そろそろOKかなとキスを迫ったところ、思い切り避けられてしまった悲しいペンギンもいた。

 ペンギンは世界に18種。そのすべてが南半球に生息する。ペンギンといえば南極と思いがちだが、実際には大半のペンギンは極地を避けてもっと温暖な場所で暮らしている。今回の南極半島クルーズで見られるのは、チンストラップ、ジェンツー、アデリーの3種だけだ。
 かわいくてずる賢くて、ちょっと臭くてぶしつけで——。あえて南極の氷の上で生きる彼らは、ペンギンの中で最もたくましく、勇敢なグループと言っていいのではないか。

 島を離れると、どこからともなくジェンツーの群れが現れて、私たちのゾディアックを取り囲み、泳ぎ回った。右へ左へ、出没しては飛び跳ねる。そのたびに私たちはうまい写真を撮ろうと右へ左へ、文字通り振り回され、最後はただ笑って眺めるだけにした。

 夕闇が次第に濃くなってきた。鳥が一直線にねぐらへ飛んでいく。私たちも後ろ髪を引かれながら、ポーラー・パイオニア号の我が家へ急いだ。
 


 

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