シリーズ世界へ! YOLO⑬
行っちゃいました! 夢の南極 (Antarctica)
〜後編

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

南極の「Destiny’s Child」=7日目 Photo © Mirei Sato

南極の「Destiny’s Child」=7日目
Photo © Mirei Sato

Day 7  ︱  12 December 2012

  • 記録時間1900hrs
  • 緯度64˚54′ S/経度60˚46′ W
  • 針路At anchor/速度At anchor
  • 気圧993.3 hPa/風速calm
  • 気温7℃/海面温度5℃

 「Come on to the deck. You’ll definitely want to see this」。朝7時前、興奮気味のドン隊長のアナウンスで目が覚めた。ハンバック・ホエール(ザトウクジラ)の群れが朝食を食べに来ている、という。寝間着の上からジャケットをかぶって甲板へ走った。

 伸び上がってはまた潜り、そのたびに大口を開けて大量のアンタークティック・クリル(南極オキアミ)を飲み込んでゆく。大きな鳴き声がして、ヒレが横倒しになった。その上を海鳥たちがおこぼれに預かろうと舞っている。
 ユーリ・ゴロドニック船長が、気を利かせて船のエンジンを切ってくれた。ダイナミックな朝の饗宴は30分余続いた。なんという1日の始まりだろう。

 朝食を済ませると、ゾディアックに乗り込んでシエルバ・コーブ(Cierva Cove)へクルーズに出かけた。すでに幾つも氷山は見たのに、また圧倒された。氷でできたアーチやトンネル、覗き穴に凱旋門…。「あれ、ギリシャ神話の女神の顔みたい」「いや、アステカの王モンテズマじゃない?」などと皆で名前をつけ合った。
 どれも間もなく氷が融ければ形が変わる、1年後に来ても同じものが見れるわけではない。そう思うと、余計に感動した。

 太陽があって暖かいのに、コーブには粉雪が舞っていた。地球上で南極ほど空気が澄んでいる場所はないそうだ。その通り、結晶が本当にきれいで、手のひらに降りかかる雪はコンペイ糖のようで、一粒一粒がくっきりと見えた。

 氷山に手を伸ばし、つららをポキッと折って食べてみた。南極のグレイシャーの氷には空気がいっぱい含まれていて、そのつららをウィスキーに注ぐと空気が抜け出してパキパキッと音がするそうだ。大昔に形成された氷ほど、音が大きくなる。いつか飲んでみたいと思った。

 大小さまざまな氷山には動物たちが暮らしている。私たちを興味深げに見つめるクラブイーター・シール(カニクイアザラシ)。幸せそうなあくびをして口いっぱいに白い泡をためたレパード・シール(ヒョウアザラシ)。ドーム屋根の形をした大氷山の上では、3匹のアデリーが、コンサート会場のステージでせり上がってきたかのようにポーズをとり、歌い踊っていた。

 船に戻ると、バーベキューランチが待っていた。晴天の甲板で勢いよく肉が焼ける匂いに誘われて、3度もお代わりしてしまった。我ながら、南極に来てからよく食べている。体力を消耗しているせいもあるが、シェフの料理が美味しいことも大きい。

 夕方は、このクルーズを催行する「オーロラ・エクスペディションズ」恒例のポーラー・プランジ大会(Polar Plunge)があった。勇気ある(もしくは無謀な)十数人が、ほぼ裸に近い格好で、船から南極の海へ飛び込んだ。

 勢いよくジャンプしたものの皆2秒ともたず、真っ青になってサウナルームに駆け込んでいく。そんな中で、中国大陸の厳寒地出身というハオだけは、すいすいと海パンいっちょでクロールして見せたのには皆びっくりした(もちろん優勝)。
 そういえば4日目に南極大陸に上陸したとき、ロシア人の船員たちが、女性はビキニ姿、男性は上半身裸になって記念写真を撮っていた。こういうところで「お国柄」「厳寒育ちの強さ」が出るのかも知れない。

 飛び込んだ人に聞いてみると、南極の海の水は思ったよりも塩っぱかったそうだ。
 もう船酔いの心配もなし、凍えて治療する人も出ないと思って安心したのか、ジョン・バリー船医が最後に飛び込んで、大会を締めくくった。

 ウシュアイアを出て7日目の夜。船は初めて、北へ針路を変えた。旅が終わりに近づいている——。誰もが少しずつそう感じ始めていた。
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