第69回 犬のグループ(その6)
文&写真/寺口麻穂(Text and photos by Maho Teraguchi)
- 2014年6月5日
「この犬、なぜか子供たちや私のかかとを鼻で突いたり、軽く噛んだりするんです」と困惑した顔で話す飼い主に遭遇することがあります。そんなコメントを発する飼い主の愛犬は、キャトル・ドッグやコーギー、オーストラリアン・シェパードなど。どうしてそんなことをするのか? それは彼らの遺伝子の中にある「家畜の群れを整頓する」という仕事意識からくるものです。家庭でペットとして飼われていても、自分の守る集団から一人がはぐれたり、別行動を取ると、「集めなければ」という仕事意識がどうしても出てしまうのでしょう。そこで、犬は家畜にするのと同じように子供などの足元を突いて、こちらに動けと合図するのです。今回は、羊や牛などの家畜をまとめて誘導させたり、見張ったりする牧畜犬として改良され、長い間人間に仕えてきたハーディング・グループについてお話します。
仕事をください!
ハーディング・グループの犬たちほど仕事意欲に燃え、働いている時に一番生きがいを感じる犬たちはいないのではないでしょうか。先日ドッグショーに行った際、このグループの中でもダントツに仕事熱心なボーダー・コリーによるデモンストレーションがありました。デモンストレーションそのものの素晴らしさよりもっと驚いたのが彼らの仕事欲でした。ステージわきで出番を待つ犬たちの興奮度はマックスを超え、ワンワン大きな声で全員が吠えたて「早く働かせて!」と必死で叫んでいるようでした。そして、いざハンドラーが綱を放した瞬間、全身の力を集中させて、一目散に与えられた仕事をこなしていました。
このグループには上記にあげた以外にベルジアン・マリノア、ベルジアン・タビューレン、ジャーマン・シェパードなどがいます。牧畜犬としての主な仕事は、家畜を移動・誘導させる仕事と害獣からの見張り業から成り立ちますが、中には牛の群れを誘導し、害獣から守り、農場をも警備しながら荷車まで牽引するブービエ・デ・フランドールなどのように牧畜業の仕事全般を受け持つ万能犬もいます。
肉体運動と知的運動が必須
このグループの犬たちは放牧業の盛んな地域では作業犬として仕えていますが、近年牧畜犬の需要が減った地域では、家庭のペットとして飼われるケースが増えました。彼らは大変聡明で飼い主に忠実です。しかし、ペットとして飼う際には気をつけなければいけない点があります。
このグループの犬に共通する注意点は、アパートメントなど狭いスペースの住居で飼うことが適していないということです。ある程度動き回れるスペースが必要な彼らにとって、狭いスペースに閉じ込められることは大きなストレスの原因になります。
また仕事欲が非常に強く、疲れ知らずに頑張る犬たちなので、その仕事欲を心身共に満たしてあげないといけません。莫大な量の肉体運動はもちろんのこと、服従訓練や群れを動かせるような競技運動もさせてあげることが彼らを心身共に喜ばせる秘訣です。彼らをペットとして飼うには、かなりの覚悟と準備が必要で、ハイメインテナンスであることを認識せずに飼ってしまうと、彼らのニーズに合わせるのが苦になり、また犬もストレスをため、お互い幸せに暮らせない悲劇を迎えてしまいます。見知らぬ人には警戒心を抱くことがありますが、反対に飼い主には忠誠を誓い、従順で行儀のよい伴侶犬となれるハーディング・グループは、愛犬と訓練や競技を楽しみたい飼い主にはまたとない選択でしょう。
次回は「テリア・グループ」について詳しくお話します。お楽しみに!
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