第14回 ボランティアとは

文&写真/樋口ちづ子(Text and photos by Chizuko Higuchi)

 アメリカでは「ボランティアは誰でもするもの」のようだ。

 東部コネティカットにあるイエール大学の同窓生は1年に一度、5月の第2土曜日を「イエール奉仕の日」と決め、世界120カ所で一斉にボランティア活動をする。5年前に始まったこのイベントに私の母校早稲田も4年前からジョイントしている。翌日が母の日だから覚えやすい。

 初参加の時にロサンゼルスで事前に催された講義に出席した。そして、さすがはアメリカの名門校だけの事はあると、驚いた。大学からの講師は世界の慈善事業に個人的に参加している経済学教授であった。ボランティアのあり方、意義、いかに効果的に資金、労働力を投入すべきかについての講義だった。

 例えば、こんな実話。アフリカで学校に行けない子供たちのために小学校を数カ所につくった。ところが子供たちが全く登校してこない。喜び勇んで来るという期待が外れた。理由を探るために実験をする。A校では、登校した子供にランチを支給した。B校では制服を支給した。C校では虫下しを支給した。3校のうち、子供が来始めたのは、どの学校だろう?私は空腹の子供たちには、当然、まずランチだろうと予測した。私の隣に座っていた人は制服と予測。ところが答えは虫下し。劣悪な環境で生活する子供たちのお腹には回虫がいる。いつも気分が悪く、学校に行く元気さえない。この事実がつかめた。井戸を掘るだけでは十分ではない。水の浄化、人々の健康をチェックすることがまず第一歩、そこから始めなければ慈善事業は成り立たないという結論だった。

 高層ビルの豪華な会議室で淡々と講義が続く。熱心に聞く大勢のイエール大同窓生は身動きさえしない。講義の後は質疑応答が続いた。ボランティア一つでも、その全体像を世界規模で観察把握し、分析し、そのあり方を広く深く考えようとしている。思考することにより、携わる単純労働は、意味のある労働に意識の中で変化するのかもしれない。「お金儲けより、学問追求が大事」というイエールの校風の一端を見たようで印象深かった。

イエール大学同窓生たちと一緒にボランティア Photo © Chizuko Higuchi

イエール大学同窓生たちと一緒にボランティア
Photo © Chizuko Higuchi

 翌日、早大の仲間たちと、いよいよ現場へ。LAダウンタウン。治安が悪いといわれている地域。そこのフードバンクで食品の仕分け作業に従事した。

 巨大な倉庫には各地から集積された食品が山積みだった。バレルの中に何もかも一緒くたに投げ込まれている。その量のすごさ。圧倒されるなどという生易しい量ではない。それを仕分ける気の遠くなるような作業。想像するだけで無力感に襲われる。

 気を取り直し、作業開始。朝食用シリアル、缶詰、などとダンボール箱に仕分けして詰めていく。

 しかし、ここがまた、日本人の底力が発揮されるところ。どうやったら早く、きちんと仕分けて詰め込めるか。即座に知恵を出し、皆で分担し、流れ作業を展開する。誰が何の指示を出すのでもない。自然に「あうんの呼吸」で、できちゃうのです。軍手まで用意してあるから、嫌でも仕事ははかどる。

 センターの責任者が喜びました。すごいと。総勢30名。一心不乱の3時間でかなりの量を片付けた。一方、イエールの方たちは? でも、人それぞれ、得手不得手がある。自分のできることを提供すればいい。いろいろな能力が必要なのだから。肉体労働をした後の汗と疲れは爽やかなものだった。

 翌年は自然公園で野草の保護のため、農作業に参加した。週末の早朝は沢山の人がエクササイズに園内を歩いている。その草陰でスコップを持って、モクモクと草取りをする。歩く側でも草取りの側でもいい。できる時に、自分ができることをする。

 他人のためというより、自分を教育するため、自分が成熟するためにボランティアというチャンスがあるのかもしれない。チャンスはつかめ。

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樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう43年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

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