AGRICULTURE 農業
1730万頭の豚、820万羽の七面鳥、21億ブッシェルのトウモロコシ、138億個の鶏卵、2億4000万パウンドのチーズ、41億パウンドの牛乳、5億2500万ブッシェルの大豆——。これらは、アイオワ農業連合会が発表している、州内農家の年間総生産量だ。
特にトウモロコシと大豆の生産量は、全米一。人間がそのまま食べるだけでなく、甘味料になったり、エタノール燃料になったり、家畜の飼料になったり。アイオワ産の作物は、私たちの生活の隅々までを支えている。
州内農家の平均面積は333エーカー(1エーカーはだいたいフットボールのフィールドの大きさ)。かなり大規模だ。
「うちも昔は農家だったけど廃業したよ」。アイオワを回って各地で何度か聞いた言葉だ。家族経営で、季節に応じて複数種類の作物を育てる。そんなモデルはもう成り立たなくなった。農場が大きくなり生産量が増えれば、短期間で収穫するための大型で高性能な機械も必要になる。そのためには相当の投資が要る。
ウォータールーで一番大きい商業農家、レーンヘイブン農場を訪ねた。ここでは「遺伝子組み換え作物」で知られるモンサント社のために、大豆と種トウモロコシを生産しているという。
もとは酪農家だったが、2004年に大豆中心に移行したという。オーナーの息子のブレイクさんは、「連邦政府の補助金が出るからという理由でしばらくはエタノールを生産するためトウモロコシを育てる農家が多かったが、今はそれが減って大豆を育てる農家が増えている」と話してくれた。
農業は、天候や作物価格だけでなく、政治にも大きく左右される。これでは、小さな家族経営の農家はニッチな路線でいく以外、太刀打ちできない。レーンヘイブンは6500エーカーあるが、それでも「アメリカの中では小さなほう」だと言い、家族経営の農家同士が協同組合のようなものをつくって支え合っているということだった。
一方で、「今ほど農業がエキサイティングな時はない」と言う人にも出会った。農業関連の研究で最先端をいくアイオワ州立大学のバイオセンチュリー研究農場のマネジャー、アンディー・スービーさんだ。
ここにはバイオマスの施設があって、デュポンやコナグラといった大手企業の支援も受け、代替燃料としてのエタノールの研究開発が盛んだ。
「アイオワの土地は肥沃だ」とスービーさんは言う。暑い夏が食物を育て、寒い冬が土に潤いをもたらす。雪が害虫を殺してくれるので、農薬を大量散布しなくてもいい。
「化学の革命によって、ここで育ったトウモロコシが、食品にも化粧品にも燃料にもアスファルトにもなる。高い技術と管理力さえあれば、都会に頼らなくてもいい。生まれ故郷を離れなくても生活できる。地元で生産して消費する経済が可能になる」と、目を輝かせて語っていた。
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アイオワのシンボルカラーは、アイオワ大学のスポーツチーム「ホークアイ」(hawkeye)の金と赤と黒。それと同じぐらいよく見かけるのが、緑と黄色の組み合わせ。こちらは「ジョン・ディアー」社のトラクターだ。
世界最大の農業機械製造会社。本社はイリノイ州だが、農業州アイオワでこのトラクターを見かけない日はない。
小型の芝刈り機や噴射式の除雪機もつくっているので、都会に住んでいて農業とは関係がないアメリカ人でも知っている。
「トラクターに愛着を抱くアメリカ人」というのは、私にとっては新しい発見だった。アイオワ州境から近いイリノイ州モリーンにある展示博物館「ジョン・ディアー・パビリオン」でガイドをしているダレルさんに聞いてみると、「その理由はプライドですね」と説明してくれた。
アメリカ生まれのほかの農機メーカーは合併や倒産でほとんど消えたが、ジョン・ディアーだけは創業以来176年間、経営が変わらない。中古品を買っても壊れずによく動くから、ロイヤルな顧客が多い。「子供の頃にジョン・ディアーのプラモデルで遊んだ思い出がある人も多いので、ここへ来ると、みんな自然と家族の思い出話になりますね」と言っていた。
ドナヒューにある酪農家「シナモンリッジ・ファームス」で、実際にトラクターの動きを見せてもらった。オーナーのジョン・マックスウェルさんは、ジョン・ディアー社から頼まれて、「現場実演」を行っている。
トラクターは世界中に顧客がいるが、大型でハイテクのものになると1台40〜50万ドルもする。買う前に試乗したい、実際に農場で動く様子を見たい、という要望に応えるためだ。ジョンさんの農場には、フランスやブラジル、マレーシアなどから年間数千人が訪れる。
トラクターの座席は相当高い位置にある。昔は手でハンドルを握って運転したが、今は座っているだけで、プログラミングさえすれば、勝手に動いて耕作も収穫もやってくれる。「そのうち人間の運転手を必要としない、無人トラクターが完成するでしょうね」とジョンさんは話していた。
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