シリーズアメリカ再発見㉝
アイオワ 農業地帯をゆく

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

大きな鉄鍋に弾けるポップコーン Photo © Mirei Sato

オズボーンの「ヘリテージ・デイズ」で食べたポップコーン
Photo © Mirei Sato

POLITICS 政治

 ミシシッピ川に沿って、景勝道路「リバー・ブラフ・シーニック・バイウエー」を北上する。途中で西へはいったところ、オズボーンでちょうど「ヘリテージ・デイズ」という収穫祭が開かれていた。
 開拓期の生活を彷彿とさせる時代衣装を着た人たちが、大きな鉄鍋でバッファローのシチューやチリを煮込んでいる。鍛冶屋のワークショップがあったり、薬売りのショーがあったり。

 一番人が群がっていたのは、ポップコーン屋。鉄鍋を囲んで4〜5人がかり。パチパチはじけて飛んでくる。何年も使い込んでいるのだろう巨大な鍋の底にこびりついたいろいろな味が、ポップコーンにもしみこんでいる。そのせいで、白というよりちょっと茶色に近いのだが、だからこそこういうものは本当に美味しい。

トウモロコシの軸を煮込んだ手作りジャム Photo © Mirei Sato

トウモロコシの軸を煮込んだ手作りジャム
Photo © Mirei Sato

 地元の女性たち手作りのジャムの店では、コーン・コブ・ジェリーを売っていた。飼料用のトウモロコシの実をとった後に、残った軸の部分を煮ると自然に甘くなる。これをトーストにつけて食べるのだ。美しいピンク色、とろっとしたゼラチン状。昔はアイオワの主食だったが、最近は地元の人でさえなかなか見ないという。収穫祭会場を案内してくれたロジャー・トーマスさんも、「懐かしい、何十年も見ていない!」と声を上げるほどだった。

 アイオワは農業州だから、食が豊かだ。トウモロコシや豚肉に限らない。ボスニアやミャンマーなど意外な場所からの移民や難民も多く、小さな街に行って珍しいエスニック料理のレストランを見つけることも結構ある。

 実はロジャーさんは、アイオワ州議会の下院議員。地盤のエルケーダーという街は、人口1400人以下と小さいが、アルジェリアとの関係が深い。19世紀にフランスから逃れてきたアルジェリア人が定住したそうで、アルジェリアとの姉妹都市交流も盛んだ。

 ミシシッピ川の支流の中で最も大きいターキー・リバーが街の真ん中を流れている。そんなエルケーダーで、名物のアルジェリア料理をいただきながら、ロジャーさんと政治談義になった。

 アイオワといえば、やっぱり「大統領選」だ。全米で最初に予備選の投票が行われる。結果はその後の選挙戦のゆくえを一気に決めてしまう可能性がある。ニューヨークやカリフォルニアなんか目ではない。大統領候補者選びにものすごい影響力をもつ州なのだ。

 2008年にはバラク・オバマがアイオワで衝撃的に圧勝。初の黒人大統領誕生の下地をつくった。2004年には、ハワード・ディーンがアイオワの勝利演説で「ヒヤアーーー!」と奇妙な叫び声を放ったがために笑い者となって、一気に支持力を失った、というエピソードも有名だ。

 それゆえ、大統領を狙う候補者たちは選挙が始まるずっと前からアイオワで組織づくりを始め、選挙が始まれば州内を文字通り駆け回る。メディアもアイオワを占拠する。

 「候補者が自分の住んでいる街に来て、直接自分に向かって話すのでない限り、投票なんかしませんよ、というのがアイオワの人たちの気質なんです。そういう意味で、アイオワの選挙は『草の根』ですね」と、ロジャーさん。

 州内の大きな街は、デモインとシーダーラピッズの2カ所しかないことも、政治家にとっては好都合。州都デモインは州のほぼ真ん中に位置し、そこからシーダーラピッズやデュビュークへ直線で行き来できるのも、便利だ。世論調査も難しくないという。二大政党の支持率も拮抗し、本選ではいつも激戦州として興味の的になる。

 「田舎者」「トウモロコシ畑しかない」——。そんなイメージを、アメリカ人は少なからずアイオワに対して抱いている。私も、正直に言えば、その程度にしかアイオワを理解していなかった。

 ロジャーさんいわく、「大統領選のたびに、前歯が抜けて300ポンドの巨体の男が干し草俵の前に立ってインタビューを受ける、なんていう光景がメディアを通じて繰り返される。そんなのアイオワじゃない、って、いつも怒りを感じますよ」。
 「経済こそ農業ベースだが、州民の意識はプログレッシブ(進歩的)。製造業が発達していて、最先端技術を学べる大学もある」とロジャーさん。

 確かにその通りかもしれない。2008年の予備選で、アイオワの有権者が、「当確」だったヒラリー・クリントンではなくオバマを選んだのは、ブッシュ政権時代のイラク戦争にクリントンが積極的に反対しなかったからだと言われている。進歩的を自負するカリフォルニアやニューヨークで、民主党の重鎮たちがビル・クリントン大統領時代の恩恵としがらみに縛られて、オバマ支持に踏み切れなかったのとは対照的だった。その翌年に、他州よりいち早く同性婚を解禁したのもアイオワだった。

 さて2016年は大統領選の年。2月1日には、民主・共和そろって、アイオワの予備選が行われる。主立った「候補者候補」たちは、すでに昨年末から水面下の選挙運動を開始しているそうだ。

 


 

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