第19回 もし日本的人事・労務慣習をアメリカで実践したら…②
文/中山亜朱香(Text by Asuka Nakayama)
- 2015年5月5日
日本では2013年から施行された改正高年齢者雇用安定法によって、「定年の引き上げ」「再雇用など継続雇用制度の導入」等を推奨していることから、65歳への定年延長などが話題となっていますが、当分の間この「定年制度」は存続していくと思われます。
さて、このような日本を始めアジアやヨーロッパの一部では馴染みのある定年という制度はアメリカ、イギリス、カナダ等の国々には存在しません。そこで今回はアメリカで定年制度を実施したらどうなるか? ということを検証してみます。
アメリカにおける定年制度実施の可否
最初に結論から言えば、これは絶対的にNOです。「At will(任意雇用契約)だから良いのでは?」と思われるかもしれませんが、仕事がなくなる、あるいは雇用形態を変更する理由が、当該従業員の年齢ということであれば、これは明白な雇用差別となります。わかりやすく言えば、同じ60歳でもまだまだ元気にミスもなく働ける従業員もいれば、老化によりミスが増え仕事の遂行能力が劣るという人もいます。そう考えると基準とすべきはあくまでも職務遂行能力(Performance)であって、生年月日ではないということなのです。
雇用主としての対応
いくら親会社のある日本で一般的な雇用慣習であるとは言え、定年制度をアメリカで実施するのは不可能です。ただし、上述の通り、Performanceを理由に段階的懲戒を経て解雇することは可能です。あくまでも継続的に公平なPerformance Review(人事考課)の実施は不可欠ですから、日頃から人事・労務管理をしっかりと行っておく必要があります。また、年齢に関わらず会社が求めるPerformanceを発揮できるか否かが雇用の大前提であることを従業員へも徹底しておきましょう。
考えられる例外
日本からの駐在員であることが明確であり、日本の親会社の就業規則に基づきアメリカで勤務している従業員はこの定年に該当する可能性が高いです。なぜ「100%と言わずに可能性が高い」と表現しているかと言えば、これは親会社の就業規則、駐在員規定、現地法人の就業規則(Employee Handbook)などの記述や駐在員の滞在資格、過去の慣習によっては雇用主側のリスクを100%否定できないからです。もし現在北米も含む海外法人に駐在する従業員が定年を迎える場合は、念のため雇用法に精通した日米の弁護士に相談することをお勧めします。
人事を取りまく状況が変わってきたとは言え、入社年次、経験年数、年齢といった時間軸が評価対象となることが日本ではまだ多いように見受けられます。対してアメリカでは、職務を評価する基準は職務遂行能力が中心です。このことを知らずに日本的な方法を用いると、訴訟という最悪の結果になる以前に、優秀な人材が退職し、そうでない人材が長く勤務するという、企業にはありがたくない結果を招くことになってしまいます
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