第20回 昇給制度
文/中山亜朱香(Text by Asuka Nakayama)
- 2015年7月5日
勤続年数の経過にともなって毎年定期的に基本給を上げていく、日本ではまだまだ一般的な定期昇給制度。賃金水準そのものを底上げするベースアップと共に日本企業の賃金制度の根幹を成しています。アメリカでも多くの従業員が毎年昇給していますが、日本の定期昇給制度とは何が違うのでしょう?
【アメリカにおける昇給】
アメリカでは能力給制度が広く浸透しているため、パフォーマンスが良い従業員は昇給し、そうでない従業員は昇給しないのが一般的ですが、人事考課の結果が悪くてもわずかに昇給させるという企業もあるようです。これは日本でいうところのベースアップのようなもので、物価上昇や初任給の上昇にともなう賃金体系全体の改定と言えます。
アメリカでは消費者物価指数(CPI)とは別に昇給率予測のデータを参考に翌年の昇給予算を確定する企業も多く、消費者物価指数と昇給率はあまり関連性がありません。ここ数年2.9~3%で推移している昇給率ですが、これはあくまで予算です。この予算の枠をパフォーマンスの高い従業員には5~7%、平均的な従業員には3%、芳しい結果を残せなかった従業員には0%といった形で分配します
【アメリカで日本の定期昇給制度を導入すると】
昇給制度に関する法律はありませんので、日本と同じような制度を導入すること自体に問題はありません。しかしながら次の2点からこの制度を維持することは難しいと思われます。
1. 人件費総額が上昇し続ける
日本の場合、新卒採用と定年制度があるため世代交代しても人件費としての原資はある程度バランスが取れます。しかしながら定年制度がないアメリカでは従業員がリタイヤすると言い出さない限り退職しませんので、勤続年数とともに給与は上昇し続けることになり、年齢を理由に例外とすることはできません。
2. 優秀な社員が退職する
能力給制度が浸透しているアメリカでは、昇給=自分への評価と考える人が多く、会社への貢献度が評価されていないと感じた従業員は職場を去っていきます。
1の問題はポジションごとに給与レンジの上限を設けることで回避できますが、何年も昇給しないとなれば、そのことが不満となって退職へとつながりかねません。また2の問題は、本人が「自分の能力より劣る」と思っている社員と給与額を比較して発覚することが多く、これが不満へとつながり、やがて退職となります。
一時期日本でも能力給制度が流行しましたが、やがて衰退してしまいました。この原因は給与制度だけを変えたものの、評価や職務など他の制度を変えなかったため、人事制度全体にひずみが起きたのが原因と言われています。
アメリカ的な昇給制度を採用する場合、それにともなう他の人事制度も再構築する必要がありますが、中でも適切な人事考課を行うことは意外にも難しく、日系に限らず、どの企業にとっても頭痛の種となっているのが現状です。適切な評価制度が整っていない企業の場合、不完全な人事制度のもとでアメリカ式を実践するよりも、日本式の定期昇給制度の方が明確で企業へのリスクが低い場合もあるのです。
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