今回から数回は、今まで日系企業管理職の方からいただいた代表的質問をQ&A形式にして取り上げてみたいと思います。これを読むと自社で起こっている問題の多くが、実は日系企業共通の悩みであることがご理解いただけるかもしれません。
Q:アメリカの雇用はAt will(任意の雇用契約)が一般的と言われ、就業規則にも「いつ如何なる時も従業員を解雇することができる」と明記されているのに、なぜ解雇に関する訴訟が多いのでしょうか?
A:パフォーマンスの悪い従業員を解雇した例を取り上げてみましょう。実は相談される企業に共通する問題点として、「解雇やむなし」といった事態となる前に、人事やその他マネジメントが公式アクションを取っていないことがあります。つまり口頭や書面での警告はもちろん、従業員のパフォーマンスに関して個別面談すら行っていないのです。また、このような問題のある従業員の人事考課が平均を示す3になっているなど不適切な評価もよく目にします。そして多くのご相談者は、「以前改善するようメールを入れた」「仕事でミスした時に口頭で注意した」という程度の「非公式アクション」しか取っていないのです。
このように身に覚えがない(と思っている)状況で、突然解雇を通達された従業員にすればまさに青天の霹靂、「一体自分が何をしたというんだ」、「この会社は何を考えているんだ?」という感情論に発展。さらに過去の出来事を思い返せば、「今まで自分の仕事に対して何も問題にされなかったのになぜ急に解雇なんだ?」「同じチームの○○の方が自分より仕事ができなかったはずだ」といった疑問が浮かび、やがてそれが「私が女性だから解雇されたのだ」「自分が○○より年上だから追い出されたんだ」、といったように「差別解雇」へと矛先が向いていきます。その結果がEEOC(雇用機会均等委員会)にレポートする、企業訴訟専門の弁護士へ相談するといったアクションにつながるわけです。
このような事態を避けるために雇用主は下記のことに注意する必要があります。
①Job Description(職務記述書)を現状にマッチした内容に更新しておき、従業員の職務内容と責任範疇を明確にし、的確にチェックできる状況にする。
②ミスやトラブルに対しては、後日まとめてではなく、その都度その場で注意し具体的に指導する。
③上記で改善が見られない場合は、個別に呼び出して正式に口頭または書面で警告を出す。この際どのようにいつまでに改善すべきか、どのようなサポートが受けられるかなどについても説明し、改善しなければ解雇もありうることを伝える。
雇用主は常に従業員に期待される職務上のアウトプットを明確にし、求める基準に達していない場合はそれを本人に通告する。そしてパフォーマンス改善のチャンスを与え、従業員がそれに応えられなかった場合も、それらを証明できる一連の内容を書面で保管する。こうすることによって、その後当該従業員を解雇したとしても、雇用主側には非がないことを証明することが可能となり、企業の訴訟リスクを軽減できるのです。
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