第18回 もし日本的人事・労務慣習をアメリカで実践したら…①
文/中山亜朱香(Text by Asuka Nakayama)
- 2015年3月5日
以前にも何度か触れてきたように、人事の仕組みや慣習というものは、日米で大きく異なりますが、違法ではないために、日本的な人事・労務慣習をそのままアメリカに持ち込む日系企業も見受けられます。今回は、「もし日本的な人事をアメリカで実践したなら」というテーマで、どのようなメリット・デメリットがあるのかをお話ししていきたいと思います。
卒業前の内定
卒業1年前から半年前に採用選考を行い内定を出す日本独自の手法は、空席となったポジションに対し随時採用を行うアメリカとは大きく異なります。しかし、アメリカの日系企業でも近年の採用難を反映してか、卒業半年以上前に内定を出すような事例も珍しくありません。
▼ メリット
製造業などでは特定分野のエンジニアを常時必要としている企業も多く、早めに採用の目途がつけられるという点で大きなメリットがあります。また、内定時に雇用契約が発生し、内定取り消しには解雇規制に準じなくてはならない日本と違い、内定を出しただけでは雇用契約とはならないため、内定取り消しのペナルティはありません。
▼ デメリット
内定を出した後にその人材を如何にキープするかを真剣に考える必要があります。日本のような内定式といった学生に対する「踏絵」も存在しないアメリカでは、学生に早くオファーすればするほど、卒業までの期間を「競合する他社」から人材を守る時間も長くなるのです。
退職社員の引き継ぎ
法律上は日本でもアメリカでも従業員が辞職したい場合は、労働者の一方的な意思表示により効力が発生するため、事前に退職を通知する必要はありません。しかしながら、日本では一般的に30日前の退職通知を就業規則で求めており、業務のクオリティや顧客の利便性を重視する現地日系企業でも、なるべく早く退職通知を出してほしいという声をよく耳にします。ではこれを2週間前通知が一般的なアメリカの雇用慣習の中で実施するとどうなるでしょう。
▼ メリット
引き継ぎにより後任者の仕事の覚えが早くなり、安心して新たな仕事をスタートすることができます。新入社員の精神的負荷が入社直後に最も高いことを考えれば、これは企業側にとって大きなメリットです。加えて重要顧客への退職挨拶時に後任者を紹介できるなど、顧客にとっても良いサービスとなるはずです。
▼ デメリット
特定の従業員にだけ1カ月前の退職通知を求めれば差別となり論外ですが、就業規則を改定して1カ月前通知にすると、会社都合で解雇する場合も1カ月分の賃金を支払うことになります。また、不満をもって退職する従業員がネガティブな情報を後任に教えたり、機密情報等が外部に流出する危険性も考えられます。
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