第21回 意外と知られていないアメリカの人事という仕事
文/中山亜朱香(Text by Asuka Nakayama)
- 2015年9月5日
実務に携わらない方にとって、人事の仕事内容は今一つぴんとこないようです。日本の雑誌にも「伏魔殿」というサブタイトルが付いた特集が組まれたり、アメリカにある日系企業でも、人事は「ブラックボックスと化している」、「暇そうで仕事をしていない」、「忙しそうだが何をしているのかわからない」という声もよく聞きます。
赴任された方にとって、日本で人事との接点は就職活動時と入社時、人事考課と赴任前後くらいではないでしょうか。アメリカでは人事の仕事はルーティンワークが少なく対応する業務が多岐にわたるために経験が重要視されるポジションです。また社内で特定の個人と親しくしない、知り得た情報を社内でも不必要な人とは共有しない、常に公平な対応を求められるなど、社内の人間関係に起因する問題を解決していく精神的なタフさが求められる仕事でもあります。しかしながら対象業務の多くが社内であるために、 問題を後回しにしてもすぐに悪影響が出ないため、充分な業務を行わなくても過ごせてしまうポジションであるのも事実です。
そこで人事が一体どのような仕事をしているのかを知っていただくために、今回からはアメリカの人事の職務内容を詳しく説明していきます。今回は比較的多くの方が接する人材採用、採用選考、解雇・懲戒についてです。
【人材採用】
日本と違い中途採用が基本のためポジションに退職者が発生することがわかってから募集を始めるケースが多く、即戦力を求めるためポテンシャルより業務遂行能力に重点を置いた採用活動が行われます。
少し前までは募集広告の掲載や人材紹介会社への依頼など、比較的受動的な方法で充分な効果を得られました。しかし現在は過去に類を見ない売り手市場であることや、若年層を中心とした求職者の多様性などから、待ちの姿勢では優秀な人材を採用することが難しくなっており、求職者市場のデータをもとに、自社にマッチした新たな採用手法を実施することも重要な役割となっています。
【採用選考】
応募書類の精査や採用予定部署との調整、候補者との面接設定等一般的な職務の他にも、雇用差別とならない公平な選考を実施するための対応や面接担当者への啓蒙、候補者の基本データ収集と分析、効果測定による募集方法の選定、必要なスキルの再検討、労働市場のデータ収集等を行います。
【解雇・懲戒】
日本の人事ではあまり発生しない業務として解雇や懲戒があります。決して喜ばしい業務ではありませんが、組織が大きくなるほど、従業員の質を維持し組織の士気を高揚するためにも必要不可欠な業務となります。特に解雇は対応を間違えると後々訴訟などの問題に発生するため、重要度の高い人事業務のひとつです。各種労働法等の関連もあり、あらゆる知識やコネクションを駆使しての対応が求められます。
一方懲戒は従業員のパフォーマンスや勤務態度を改善するために実施するので、Warning Letterを用意して完了ではありません。その後のフォローアップや懲戒を受けた従業員や上司へのサポート、一定期間の経過後に改善の有無を確認するなど継続的な業務が発生します。
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