第84回 アニマル・ホスピタルで
文&写真/寺口麻穂(Text and photos by Maho Teraguchi)
- 2015年9月5日
去年カリフォルニアに引っ越して来たばかりの頃の話です。ノアの予防注射のために、近所の動物病院に行きました。触診が済み、注射という段階になって獣医師が「すぐに戻って来ますのでここでお待ちください」とノアを連れて別室に行ってしまいました。どうして別室へ? と不思議に思いましたが、そこのやり方を尊重しようと黙っていました。すると5分も経たないうちに、獣医師がノアと戻って来て、「ノア君はお母さんがいる方がいいみたい。何度も後退して逃げようとするので戻って来ました」と。診察や注射の際には、飼い主の私がいつもサポートすることを話し、首輪をスッと持ちました。ノアはじっと立って注射を受けました。獣医師曰く、飼い主のほとんどが、診察、治療を始めるとパニックになり、診察室一杯にネガティブなエネルギーをふりまくので、大変治療がしにくいそうです。それなら、一層飼い主の姿がない方がスムーズに治療が進むと別室に連れて行くのだとか。もし、飼い主の大半がそうだとしたら、それはとても恥ずかしい話。今回は、動物病院やグルーミングストアなどでの飼い主の対応についてのお話です。
可哀相?
治療を受けたり、グルーミングされたりする際に、犬が慣れないことで緊張したり、嫌がると、飼い主の中には、「うちの子があんな顔をしている…。ああ、可哀相…」とわなわなして、ネガティブなエネルギーを放つ人がいます。すると、犬は自分の置かれている状況が恐ろしいものだと思い、もっと酷く反応します。また、万が一の噛み防止につけるマズルに異常に反応する飼い主もいます。あんな姿にさせられて…とでも思うのでしょうか。これはトレーニングでも同じです。今まで飼い主にチャレンジされたことのない犬は、専門家からの初めての指示で大変戸惑い、抵抗します。そんな様子を見た時、飼い主が「可哀相…」と思えば、犬も今起こっていることが悪いことだと思うでしょう。
怪我や病気の治療、グルーミング、そして問題行動改善やしつけのトレーニングは、すべて愛犬が快適な生活を送るため、と飼い主が心から理解すれば、犬もついてきます。しかし、飼い主が不必要な心配・懸念・間違った同情を抱くと、犬は自分の身に降りかかっていることはネガティブとしか思えません。
自分の犬こそ自分で
誰に何をされるのも平気という犬もいます。そんな犬の飼い主なら楽ですが、残念ながらそんな犬ばかりではありません。噛もうとしたり、逃げようとしたり、反応はさまざま。愛犬にとって大切な治療やグルーミングなどをよりスムーズにこなすためには、飼い主の日頃の努力が必要です。歯磨き、爪きり、耳掃除、ブラッシング、お風呂、家の中に入る際の足拭きなど、日頃から家で飼い主がなんでもできるようにしていれば、特別な状況で、愛犬がいつもよりパニックになっても、飼い主がコントロールできるわけです。また、飼い主が冷静でいられれば、専門家からの大切な情報がきちんと聞け、またレベルの高い飼い主だと認められ、専門家とより良い関係作りにつながります。
家での手入れですが、最初は上手くいかなくても、根負けせず、楽しくリラックスした雰囲気の中、毎日少しずつ慣れさせていきましょう。大事なのは、飼い主が「なぜ大切なのか」ということを根本的に理解すること。そうすると、飼い主としてすべきことが見えてくるはずです。
次回は、「飼い主の期待」と題し、自分の経験談をもとに、飼い主が愛犬に寄せる期待と現実のギャップ、それを乗り越えて得るものの話です。お楽しみに!
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