第46回 保健の授業の目的

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

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 もうすぐ中学も卒業という時期の8年生の5月、ニナはヘルスの授業を受講し始めた。ヘルスは日本語で言う保健。体育の教師が教えるのだろうと思ったが、ニナに聞くとサイエンス(理科)の教師が担当だと言う。

 保健のクラスでは、まず、何について学びたいか、生徒にアンケートを取った。HIV/エイズ予防、避妊、アルコール、ドラッグ、喫煙、自殺などの項目からニナは自殺を選択。そう言えば、以前、日本での自殺率が非常に高いことを知った彼女、「日本人は精神的に不安定で不健康だ」と友達に説明していたことがある。

 HIVとエイズに関しては、望もうが望むまいが、全員が学ぶことになる。私自身、3年ほど前に、日本のHIV予防啓蒙団体のハンドブックの調査のために、アメリカ人の若者を対象にしたHIVとエイズに関する街頭インタビューに携わった。あの時、ほとんどの回答者が、学校でHIVについて学んだと答えていた。そして、正しい知識こそが予防につながると断言する人が少なくないことに安心した。私はあの意識調査を通して、アメリカの学校の保健とは、「健康的な生活を送れる大人になるための必須科目」なのだと改めて認識した。

29歳で何をしているか?

 さて、アンケートとは別に、保健担当の教師からいくつかの質問が出された。テーマは「あなたの将来像」だ。

 質問は次の通り。「29歳になった時、あなたはどんな職業に就いているか?」「月収はいくらか?」「大学は卒業したか? 卒業したとしたら、どこの何という大学を出たか? 何を専攻したか?」「29歳の時点で、結婚しているか? 子どもはいるか? いるとしたらどんな家族か?」「どこの国のどこの街に住んでいるか? どのような住居か?」「29歳の時点での理想的な1日を記述せよ」「そのような大人になるために、十代のうちにやっておくべきことを3つ挙げよ」

 これらの質問は学校のウェブサイトの教師のページに表示され、生徒はオンライン上で回答するシステム。詳細は割愛するが、ニナは日本の大学を卒業し、29歳の時には日本の中学校で英語を教えていると答えた。少し前は建築家、さらにその前はアメリカの中学で日本語を教えると言っていたのだが、そういう年頃なのか、なりたい仕事が二転三転している。

 理想の1日については、健康的な朝食を食べて学校に向かい、生徒たちには英会話が話せるようになるためのオリジナルな教材を提供、特に動画を通して使える日常会話を教えると書いた。そして、日本の中学生が英語とアメリカを好きになるように努め、自分は日本とアメリカの橋渡しをするのだ、と。最後の質問、「そのために十代のうちに何をすべきか」は教師の狙いそのものだ。ニナは「大学に進学できるように良い成績を維持すること」「将来、生徒の気持ちがわかった上で教えられるように、人助けやボランティアなど奉仕活動を経験すること」「知識習得のため、たくさんの本を読むこと」と書いた。自分がなりたい大人になるための目的意識を育むことが保健の授業の意図であるなら、これらの質問は非常に有意義なものに思える。
 
 将来像について思いを巡らせた後は、男性の生殖機能についてのお勉強。保健の教師からは、各器官を物に喩えた上で、生殖成功までの流れを物語にしてレポートするという、何ともクリエイティブなお題が出されたのだった。まさに大人になるための必須知識だ…。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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