第55回 日本の学生生活

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

 2月の2週間、日本に一時帰国した。目的は長男ノアが日本で通う学校の保護者向け就職説明会に参加することだった。彼は私の実家がある市の専門学校でビジュアルアートを学んでいる。アメリカに生まれ育って18歳まで英語を第一言語としていた彼だが、日本の漫画やアニメが大好きだった。高校時の成績では米国内の4年制大学に進学するのが難しかったので、本人も「コミュニティカレッジに行く」と言っていた。しかし、ある時、彼の一言で進路が変わった。「日本で生活したい」。と言うことは帰国子女枠? それに向けて急遽準備したが某国立大学の受験に失敗した。ノアが受験した年は、その大学の帰国生と外国人留学生の合格者はゼロだった。それでも彼は日本にこだわった。こういうこともあろうかと、私はノアが高校3年目の夏休みに単独で私の実家に行った時に、市内の専門学校の体験入学に申し込んでおいた。適性試験を受けた結果、ビジュアルアートがA判定だった。ただし、情報処理にも適性があると後日メールで連絡が来た。

 昨年2月、大学の結果が出た後、ノアはそのまま日本に残り、体験入学した専門学校を受験した。情報処理ではなくノア本人がビジュアルアートに決めた。

 そして、ノアは日本の学生になった。本人にラインで「困っていることはない?」と聞くと「特にない。大丈夫」という答えしか返ってこなかった。あっという間に1年が過ぎた。

住んで初めてわかること

 就職説明会の案内が転送されてきた時、「日本の学校は保護者にそこまでしてくれるのか」と驚いたが、一方で「学校の先生に本人の様子を聞くいい機会だ」と参加することにした。説明会では、学校が就職に向けどのようなサポートをしてくれるのか、就職試験までに自動車免許取得とアルバイト体験を済ませておくこと、内定後の研修時の注意事項などを丁寧に解説してくれた。

 その後、ビジュアルアート担当の教師と、クラス担任の教師、それに私とノアとの四者面談が行われた。クラス担任の教師が「日本の学校に通うのが初めてとは思えないほど、ノアくんが自然に環境に順応しているように見える。実際のところ、困ってないのか?」と聞いた。本人は「もっと色々、自分の想像と違うのかなと思っていたが、困ることも特になく、友達も助けてくれるので助かっている」と答えた。

 ノアが高校時代に日本語検定の1級に合格していたこと、合格そのものよりもその準備で勉強したり日本語の小説を読んだりしていたことが役立ったのかもしれない。

 ビジュアルアートの教師の「英語のキャッチコピーを使ってデザインの実習をする時はノアくんがいるので緊張する。英語が間違ってないかどうか聞いてみようと思ったりもする」のコメントには、教師のまっすぐな人間性が伝わってきて微笑ましかった。そして、彼が置かれた環境に恵まれていることに感謝した。さらに担任教師が「就職は日本でいいか? アメリカに帰国させたいと親として思わないか?」と確認してきたので、「息子の希望で来た日本だからアメリカに帰って来なくていい。ここで好きな仕事に就いてほしい」と答えた。

 数日後、雑談の中でノアが「日本人は正しい意味を知ろうとせずに気軽にカタカナの言葉を使う。すごくストレスになる」と言った。それを聞いて私は思わず「自分が好きで来た日本で日本人の批判をするの?」と言ってしまった。すると彼の返事はこうだった。「いや、そういうことじゃない。住むまではわからないこともあるって言っているだけ。僕は日本で生活するよ」。彼の気持ちは固いようだった。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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