第42回 ワインとテーブルマナーに見るカルチャーの違い

文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)

乾杯はグラスを胸の位置に掲げるだけPhoto © Yuki Saito

乾杯はグラスを胸の位置に掲げるだけ
Photo © Yuki Saito

 近年はどこの国でもテーブルマナーが緩やかになってきている。略式社会のアメリカでは、高級レストランで食事をしていても、ナイフとフォークをきちんと使いこなす人は少ない。大抵はナイフを使わずに、利き手に持ったフォークをナイフ代わりに使っている。日本人を含めて東洋人に多く見られるテーブルマナーに、肩肘をついて食事をするという所作がある。いずれも美しいとは言い難い。

 ワインを飲む際に、一番気になるマナーは、柄(ステム)を持たずに、直接グラスを持つことだろうか。折角ワインに手が触れないように設計されていても、これでは意味がない。ステムを持つことで、ワインに手の温度が伝わらないように配慮されている。ワインやシャンパンは温度の変化に、とても敏感なのだ。とは言え、近年大手の高級グラスメーカーが 、ステムのない普通のグラスを「ワイン用」として売り出した。全く、流行(?)に敏感なメーカーである。

テーブルサイドでデカンタをするPhoto © Yuki Saito

テーブルサイドでデカンタをする
Photo © Yuki Saito

 きちんとしたレストランでは、注文したボトルを席の脇に設置したクーラーに入れ、タイミングを見計らって注ぎに来てくれる。とは言え、飲むペースの早い客や、混んできたレストランで、ソムリエと客のタイミングが合わないことがある。こういう場面で、待ちきれずに席を立ち、 ボトルを取ってきて手酌する人がいる。あまり品が良いとは言えない。 かく言う筆者も、東京っ子でニューヨーカーという「滅法気の短い」タイプで、「トロイ」サービスにイラつくことがある。そんな時には、とりあえずソムリエを呼ぶか、あらかじめ「自分たちのペースで飲みたいから」と瓶を手の届くところに置いてもらい、「自分で注ぐから気にしないで」と一言言っておく。高級なレストランであればあるほど、気をつけるのでこちらで給仕させてくださいと言ってくるが、その際には余裕の笑みを浮かべて、「実は互いにワインを注ぐのが楽しいの」とでも言い含める。

 また、当人に悪気はないが、自国以外のマナー知らずで、誤解を招くことも多々ある。先日、日本からの出張者と会食をした。男女混合のテーブルで、ウェイトレスが女性に椅子を引いた瞬間に、男性の上司がその席に座り込んだのには、驚いた。戸惑ったウェイトレスが気を取り直して、まず女性から注文を取ろうと女性の席に近寄った瞬間に、隣の男性社員がそれを遮るように自分の注文をする。また、商談中にもかかわらず、英語を解さない女性が、甲高い声で日本語で内輪話をする。やんわりといなしたが、いずれも現地の人に違和感を残す 。

 当然、外国人も日本を訪問する際には、日本の常識を学ぶべきだ。長蛇の列ができるサラリーマンのランチタイムなのに、食べ終わった後も悠々と長居するのは美しくない。これがアメリカなら、長々と食べている人のペースを尊重して、さっさと他の店を探すのが普通だ 。また、ヨーロッパであれば、誰も文句を言わずにじっと自分の番を待つ。彼我の常識、カルチャーの違いだ。

 見ていて気の毒になるのは、 マナーを意識し過ぎて不自由な思いをしている人だ。切れ味の悪いナイフと格闘したり、不自然なデザインで使い勝手の悪いフォークやスプーンに我慢したりする必要などない。さっさと手でつまんだり、違う道具に換えてもらったりするのが良い。マナーとは所作の美しさであり、人に不快感を与えないことだが、自身が目の前の食事やワインを心から楽しむことができなければ、本末転倒である。マナーのためのマナーなど、あってはならない。

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斎藤ゆき (Yuki Saito)

斎藤ゆき (Yuki Saito)

ライタープロフィール

東京都出身。NYで金融キャリアを構築後、若くしてリタイア。生涯のパッションであるワインを追求し、日本人として希有の資格を数多く有するトッププロ。業界最高峰のMaster of Wine Programに所属し、AIWS (Wine & Spirits Education TrustのDiploma)及びCourt of Master Sommeliers認定ソムリエ資格を有する。カリフォルニアワインを日本に紹介する傍ら、欧米にてワイン審査員及びライターとして活躍。講演や試飲会を通して、日米のワイン教育にも携わっている。Wisteria Wineで無料講座と動画を配給

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