バリ島紀行 第5回 伝統舞踊とガムランの調べ

文&写真/水島伸敏(Text and photos by Nobutoshi Mizushima)

王宮で行われる伝統舞踊 Photo © Nobutoshi Mizushima

王宮で行われる伝統舞踊
Photo © Nobutoshi Mizushima

 ウブドの街では伝統舞踊や影絵が毎晩のように行われている。ケチャやバロンをはじめ、レゴン、バリスダンスなど様々な舞踊を、王宮、寺院、集会所などで見ることができる。
 荘厳な王宮の中庭に鳴り響くガムラン演奏を聞きながら、豪華な衣装をまとった踊り子たちが繰り広げる華麗なダンスを見ていると、過去にタイムスリップした気にさえなってくる。しばらくの間、その妖艶な踊りに魅せられていると時折、踊り子と目が合ったような錯覚に陥る。この踊り子はひょっとして、物語の少女のように不思議な力を持っているのではないかとふと思ってしまう。
 だんだんと舞台の両側で演奏されているガムランの音楽が頭の中に広がってきた。若い時分に耳にしたガムラン音楽は、なんだか訳が分からなくてあまり聞く気にはなれなかったのを覚えている。
 今回もはじめは、やはりでたらめな音に聞こえてきた。しかし、徐々にその旋律が完璧に調和して聞こえてくるから不思議でしょうがない。生の演奏だからか、このバリの夜だからなのか、目を閉じて聞いていれば、それは日本の子守唄のようでもあり、コルトレーンやマイルスのジャズセッションのようにも聞こえてくる。普段、聞き慣れているようなドレミの音階ではないようにも思え、もし、宇宙に音があるとしたらこんな音楽なのかもしれないと想像してしまった。
 しばらく音色に聞き入っていると、どこからともなく違うガムランの音が聞こえてきた。振り返ると、王宮の外の道を大勢の人たちが、行列をなして歩いている。伝統衣装を身にまとった数百人の人たちが歩いていた。静かな夜のウブドの街に響きわたるガムランの音に引きつけられるように、私はその行列の後を付いて行った。女性たちは頭に供物を掲げ、男性たちは神輿を担いだり、ガムランを演奏したりしながら淡々と行進を続けている。
 これだけ大勢の人が一度に祈りを捧げ、それが日常的に行われているのを目の当たりにすると、”BALI“という島の名の由来となったサンスクリット語の「供物」という意味をあらためて考えさせられる。やはり、ここは祈りの街で祈りの島なのだ。行列は暗くなった街中をしばらく進んだあと、大きな寺院の中へと消えていった。
 この島の人たちの信仰心には本当に驚かされる。毎日の家寺でのお祈りやチャナンの捧げものに加え、平均して月に2〜3回は村の寺院に家族揃って行かなくてはならない。フルーツやお菓子を山盛りにした供物を頭にのせて寺院へと向かう姿は信仰のあついウブドの街では毎日のように目にする。そして、日々のチャナンにしろ、その供物にしろ、神様に祈る事にもなにかとお金がかかる。地元の人との会話の中で、ここの人たちは祈るために働いているようなものだよ、と冗談じみた話がでたが、それもまんざら大げさではない気がしてきた。

バリ・ルネッサンス

 1900年頃から続いた凶作や大地震、疫病をバリ島の住民たちは神の怒りや悪霊と捉えた。それを静めるために富裕層は寺院の修復、祭祀や儀礼を復活させ、住民は舞踊、音楽、絵画などの伝統文化を積極的に行うようになった。そして、その頃にバリ島を訪れたり、住み始めたりしたヨーロッパの芸術家たちに多大な影響を受けて、ウブドやその周辺の村々を中心にバリ芸術が花開いていった。
 遠近法や解剖法などの西洋の技法が紹介されると、バリにあった絵画様式にこれらの西洋技法が加わり、バリを代表する絵画様式であるウブド・スタイルが誕生した。一方、バトゥアン村などでは西洋の影響をまったく受けることなく、キャンバスいっぱいに人物やモチーフを埋め尽くす遠近法のないバリ独自の絵画様式バトゥアン・スタイルが発展していった。
 バリ舞踊においても、より観客を意識した新しい演出がさかんに行われるようになった。これ以降のバリ舞踊は、このような演出を基盤に今も発展を続けている。その中心となったウブドの隣村であるプリアタン村からは今も多くの優秀な踊り手が生まれている。

ガムラン音楽

 調律をわずかにずらして作られている二つの同じ青銅製の鍵盤打楽器などからなるバリ島の伝統音楽。地方によっては、竹でできたものや鉄でできたガムラン楽器がある。その音は人間の脳をリラックスさせ快感を生み出す高周波成分を多く含んでいて、聞いた人を陶酔的な世界に引き込む力があるという。青銅打楽器に加え、笛、ドラ、太鼓などがあり通常10人から20人程度で演奏されるが、奏者が40人にも及ぶガムランオーケストラもある。

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水島伸敏 (Nobutoshi Mizushima)

水島伸敏 (Nobutoshi Mizushima)

ライタープロフィール

アメリカ先住民の取材をライフワークにするため、プエブロ族やナバホ族などが多く住み、ホピ族の居留地にも近いニューメキシコに数年前、ニューヨークから移住。現在はアラスカ最北の先住民やニューメキシコとフォーコーナーズを中心としたアメリカの原子力関連の写真プロジェクトも進行中。

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