シリーズアメリカ再発見㊵
ウィスコンシン
チェリー漬けの日々

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

パイにチーズにソーダにワイン
半島全体が「チェリー」に染まる

 ドアー・カウンティーは、細長い半島だ。東にレイク・ミシガン、西にグリーンベイ。アルカリ性の土壌と、ライムストーンを多く含む水に恵まれ、夏は暑くて冬は寒い気候が、果物栽培に適している。19世紀後半までに、スカンジナビア半島からの移民らがチェリーの栽培を始めたという。
 タルトチェリーの代表格、ドアー・カウンティーで一番多く栽培されているのが、モンモーレンシー(Montmorency)という種類だ。ベーキングに使うバラトン(Balaton)もつくられている。
 タルト以外では、ビング(Bing)、レーニエ(Rainier)、クイーンアン(Queen Anne)も。
 特にクイーンアンは、地元の人たちから「パッカーチェリー」と愛情込めて呼ばれている。実がゴールドで、葉っぱが緑。彼らが愛してやまないプロフットボールNFLチーム、「グリーンベイ・パッカーズ」のチームカラーだからだ。
 チェリーの木々は、5月になると白い花をつける。7月中旬から8月中旬にかけてが収穫シーズンだ。この時期は、カウンティーのどこへ行っても、チェリー、チェリー、チェリー。レストランや、ファーマーズマーケット、ギフトショップなど、いたるところで旬のチェリーを使った名物が飲み食いできる。
 チェリーソーダ、チェリージュース、チェリーワイン、チェリーアイスクリーム、チェリーパイ、チェリーチーズ、チェリーマルガリータ、チェリーコーヒー、チェリーパンケーキ、チェリーフレンチトースト、チェリードーナツ、チェリーサルサ、チェリーチャツネ、チェリードレッシング・・・。
 最近は、タルトチェリーの「効能」も注目されている。ルビーレッドの色と酸味が体にいい、よく眠れる、コレステロール値を下げる、筋肉痛や炎症をやわらげる、など。ウィスコンシン大学マディソン校が研究開発した、タルトチェリーの栄養ドリンクが、よく売れている。
 収穫シーズンは、夏休みと重なって、「チェリー狩り」も盛んだ。
 ローテンバック果樹園(Lautenback’s Orchard)で体験した。もちろんトラクターではなく、手で摘む。小さなバケツをいっぱいにするのに、15分はかかった。最新の機械なら、7秒もあれば1本の木を収穫できるが、手作業となると大変だ。昔は、季節労働者や戦争捕虜も担ぎ出されたと聞いた。
 果樹園上空に、時折、エアガンをぶっぱなす音が聞こえる。チェリーを狙うシーガルを追い払うためだ。シカも寄ってくる。チェリーに興味はないが、枝を食べてしまう。
 シカよけには、安ホテルに置いてあるような石けんが一番いいらしい。それを木の枝につるしておくと、シカは来ない。
 「安い石けんは、私たち人間が毎日体を洗うのに使うでしょう。雨や風で、つるした石けんの匂いがぷーんと漂うと、シカは人間が来たと思って逃げるんですよ」。ローテンバックを案内してくれたジョーダンさんは言っていた。


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