開幕を3週間後に控えた8月中旬。トレーニングキャンプも2週目を迎え、ロサンゼルスからサンバーナーディーノへと場所を移した。練習が始まった午後3時の気温は摂氏40度。11対11で戦う試合の出場機会を求め、100人以上が猛暑の練習に励むが、各自がコーチにアピールできる時間は限られる。「いかに自分がプレーを理解し、相手よりも秀でているかということを意識しながらプレーしなきゃならない。格闘技でもあるので、とにかく相手を倒すという意識も必要」。そう話す庄島選手の物腰は驚くほど柔らかだが、身長188cm、体重132kgの巨漢だ。それでも他の選手に混じると小柄に見える。
9歳の時にアメリカへ引っ越し、アメフトを始めたのは高校1年生の時。それまで強い興味はなかったが、アメリカでは花形スポーツでもあり、「せっかくなので試してみようと思った」。高校では誰もが攻守両面でプレーさせてもらえ、その中でオフェンスラインのポジションが「自分の体と心に合っている」と感じたという。
高校卒業後、サンタモニカ・カレッジへ進学したのは計画的な回り道だった。試合出場機会を得ながらアメフトの腕を磨き、UCLAへの編入実績を誇る学校を選んだ。1年目から先発出場し、カンファレンス優勝を果たすと、2年目はキャプテンとして2連覇に貢献。遂にUCLAから優待選手(Preferred Walk-on)のオファーを手にすることができた。編入1年目の昨季は規定により出場できず、ローズ・ボウルのサイドラインから試合を見守った。「いつか自分もそこに立ちたい」と思いながら。
損な役回りでも
庄島選手のポジションは通常5人が並ぶオフェンスラインのセンターだ。センターが股下からクォーターバック(QB)へボールをスナップすると攻撃が始まる。オフェンスラインの仕事はディフェンスラインを押し返し、突進を阻止すること。庄島選手が格闘技に例えるのも納得できる。そうすることでパス攻撃ではQBを守り、ラン攻撃ではランニングバック(RB)の走路を開く。
センターにはもう一つ重要な役目がある。ライン仲間にディフェンスのどの選手をブロックすべきか、指示を出すことだ。前進すると見せかけ、後退する選手もいれば、逆のケースもあり、それを見極める頭脳が必要だが、「そういうことが得意だとやり始めて気が付いた」。オフェンスラインのおかげでパスやランが成功しても、QBやRBの力量だと思われがちだ。一方、オフェンスラインのミスでQBが倒されたなら、一躍戦犯扱いされる。成功プレーでは日の目を見ず、失敗プレーでは大注目される役回り。実況中継で名前が出ないのは名誉なこと。そのため名選手でさえ知名度は低いが、「自分に合っている」という。
将来はNFL入りも?
目前の目標を聞くと、堅実な答えが返ってくる。「いつ自分の名前が呼ばれてもいいように、健康で常に試合に出る準備ができていること」。現時点では2番手のセンターであり、試合出場機会は約束されていない。その現実を踏まえたものだが、怪我が付き物のスポーツだ。ローズ・ボウルの舞台に立つ日は意外と早く訪れるかもしれない。
今年UCLAでは8選手がドラフト指名され、NFL入りを果たした。チームの監督はアトランタ・ファルコンズなどで監督を務めたジム・モラ。攻撃コーディネーターのケネディ・ポラマルは元ピッツバーグ・スティーラーズの名選手トロイ・ポラマルの叔父。QBコーチのマーカス・トゥイアソソポはオークランド・レイダースなどで活躍した元選手。NFLを意識しないはずはない。アメリカのメジャースポーツで唯一日本人選手が誕生していないリーグでもあり、庄島選手にはその期待もかかる。
しかし、当の本人はこう言う。「アメフトをやっているとNFLが夢になるとは思うんですけど、今の目標としてはUCLAで試合に出ることが第一。それ以上のことは考えてないです」。UCLA編入の夢を叶えた時のように、目の前にある課題をこなし続ければ、NFL入りという将来も開けてくるのかもしれない。
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