目指せ東京オリンピック!
新体操の篠原枝令菜ちゃん

文/金岡美佐(Text by Misa Kanaoka Seely)

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ロシアから調達した衣装で演技するエレナちゃん
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 今年6月に新体操米代表チームのメンバーが発表された。そのジュニア部門(13~15歳)にはアトランタ郊外に住む篠原枝令菜(エレナ)ちゃんの名前があった。中学時代から全国大会で準優勝の経験がある元新体操選手のコーチを母に、東京大学で博士号を取得し、現在はジョージア工科大学でスポーツ科学を研究する准教授を父に持つ15歳。これまでの努力がひとつの実を結んだが、目標は2020年の東京オリンピックだ。

生まれながらのパフォーマー

 新体操の米代表はシニア部門とジュニア部門がそれぞれ8人。6月26日、ノースカロライナ州で行われた全米新体操選手権で7位に入賞したエレナちゃんは自動的に代表入りが決まった。6月上旬の予選では19位と振るわなかったが、「演技を見せるのが好きで、大会でも緊張はしない」エレナちゃんは尻上がりに調子を上げ、晴れてTeam USAのユニフォームを手にした。「自分はこれぐらいできるというのを見せたかった。いい演技ができ、満足していた上に代表入りすることができて嬉しかった」。そう話すエレナちゃんの声にはまだあどけなさが残る。

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全米選手権で得意のボールを演技するエレナちゃん
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 父の米国赴任に伴い、生後5カ月で渡米。6歳の時「ママと同じことをやってみたい」と新体操を始めたが、母親の奈美枝さんの胸中は複雑だった。「自分と同じ道を進むのは嬉しい反面、競技選手としてやるのはやっぱり大変。普通の10代の女の子が楽しむことは一切できない」。そんな母の心配をよそに、毎日3時間の練習を続けるエレナちゃんに、練習を休みたいと思ったことはあるか?と聞くと、しばらく考えた後、「あまりないな~。練習もトレーニングも好きなので」という答えが返ってきた。

努力だけでは克服できない障害も

 新体操はアメリカではまだマイナースポーツだけに、練習施設や有能コーチの数は限られ、元選手の親から直接指導を受ける選手は少なくない。エレナちゃんもその一例で、練習は近所で借りられる体育館を転々として行っている。体育館のフロアには2万ドルもするという新体操用のマットがなかったり、天井が低く手具投げの練習ができなかったり、決して恵まれた環境とはいえない。一方、別の意味でエレナちゃんほど恵まれた選手はいない。母親はコーチ。父親はスポーツ科学を専門とする研究者。筋肉の疲労回復であったり、体の柔軟性の向上であったり、科学的な理論に基づいた効率的なトレーニング方法を娘に指導している。

 こうして両親の下で練習を積んできたエレナちゃんは、10歳の頃から全米選手権や地域大会で優勝するなど頭角を現していたが、米代表のメンバーを競うジュニア部門の年齢13歳に達した2013年以降、ある障害に直面する。アメリカ国籍がないため、全米選手権の予選を勝ち抜いても、決勝へ進むことが許されなかったのだ。このことは父親の稔さんにとって大きな心痛となった。「自分自身の夢を追った結果、成長期の娘から夢を奪っている親がどんなに惨めなことか」と自身のブログに書き記している。「マイナスの足かせを外すのは張本人の責任」とアメリカ国籍取得を決意した稔さんは、2014年9月にアメリカ人になり、エレナちゃんは自動的にアメリカ国籍を取得することになった。そして、その9カ月後に開催された今年の全米選手権では、エレナちゃんが見事にアメリカ代表入り。オリンピック出場の夢に一歩近づいた。稔さんは日本国籍を手放すことには結構ためらいがあったというが、家族がハッピーなら、結果的には自分もハッピー。家族がハッピーでなければ、結果的には自分にもマイナスになると信じて踏み切った。

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衣装は奈美枝さんのものも手がけた日本のデザイナーへ依頼
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家族それぞれが持つ役割

 多感な10代の娘と1対1で親が指導して行う練習には、もちろん一長一短がある。奈美枝さんから指導を受けることについて、エレナちゃんは「たまに練習で怒られた時、普通のコーチだとそこで終わりなんですけど、帰りの車の中も、家に帰っても一緒で、そこでも怒られる(笑)」と茶目っ気たっぷりに話す。

エレナちゃんの米代表入りが決まり、両親も米ナショナルコーチとなった(篠原さん提供写真)

エレナちゃんの米代表入りが決まり、両親も米ナショナルコーチとなった(篠原さん提供写真)

 「コーチと母親の顔を切り替えられないと、家に帰ってもその日の練習のことを口にしてしまっているのだと思います。自分が反対の立場だったら、家に帰ったらお母さんになって欲しいですよね」と奈美枝さんも同情するが、娘の上達を願ってのことだ。実際、エレナちゃんにとって不利なことばかりではない。学校で宿題が多い時は練習量を調整してもらえるのは、奈美枝さんがコーチならではの特典だ。

 篠原家の女性2人の言い分を、それぞれの肩を持ちながら聞く役目を務めるのは稔さんだ。奈美枝さんがコーチと母親の2つの役割をこなさなければならない状況だけに、親としてできることをより強く意識して向き合っている。奈美枝さんから聞かされることの中には、「あなたの子供はこれができません」という選手の親に対する苦情めいたものもあるそうだが、そういう場合は、まず奈美枝さんの話を聞いた上で、「そういう子供をいかに指導するのがコーチの力量です」と切り返すユーモアも忘れない。

目指すのはオリンピックのみならず

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新体操米代表ジュニアチームのメンバー
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 東京でオリンピックが開催される2020年、エレナちゃんは20歳になる。米代表入りしたこの1年間はアメリカ代表選手として合宿に参加し、大会に出場する義務がある上、生活の拠点がアメリカにあるだけに、アメリカ代表としてのオリンピック出場を目指すことになる可能性が高い。しかし、国籍選択期限の22歳に達していないため、日本代表として出場する可能性も当然残されている。

 オリンピック出場はエレナちゃんの目標のひとつだが、それだけではない。将来は生物化学技術者として働くという別の目標も立てている。「血が怖いので医者にはなれないけど、新しい薬を作ったり、実験をしたりして、医療を後方支援する仕事に就きたい」のだそうだ。さすがは星薬科大学創設者である星一と同じ血を引くエレナちゃんだ。目標をひとつひとつ着実に追い続ける彼女に声援を送りたい。
 

エレナちゃん一言 Q&A

得意な種目:ボール(滑らかで転がる時も綺麗だから)
苦手な種目:ロープとリボン(形が汚くなりやすいから)
好きな色:青とピンクと紫
好きな科目:理科

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篠原夫妻が主催する新体操クラブ「Rhythmic Brains」ではスポンサーを募集中。代表メンバーとはいえ、協会からは強化合宿の旅費すら補助されないのが新体操の厳しい現実だ。
問い合わせ先: rhythmicbrains@shinoharaacademy.org

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金岡美佐 (Misa Kanaoka Seely)

金岡美佐 (Misa Kanaoka Seely)

ライタープロフィール

シアトル郊外在住のフリーランス・スポーツライター。「スポーツは見て楽しむ」をモットーに一年中、プロ、大学、高校、男女問わず、色んな試合を見ては、映画やドラマでは得られない感動に浸っています。中でも一番好きなのは1992年に渡米してから面白さに目覚めたアメフト。スポーツとして、エンターテインメントとして、ビジネスとして話題が尽きないNFLに関する情報をwww.afnjapan.com@afnjapan)で発信中。野球、バスケ、サッカー、その他のスポーツに関してはツイッター(@MisaKSeely)でつぶやいています。

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