はるか昔の学生時代、先輩に怖い話をさんざん聞かされた後で、納涼・肝試し! などと気合いを入れられて、お墓にほっぽり出されて、文字通り肝を冷やした経験はないだろうか? アメリカの墓地は棺ごと埋葬されるので地面の下にはまさに死体が横たわっているわけで、夜中に行った時の怖さは日本の比ではないはずなのだが、昼間の墓地は緑豊かで、手入れの行き届いていて、まるで高級住宅地に隣接する公園のように美しい。日本のように色も形も画一的な墓石と違って、お国柄よろしくクリエイティブな墓石が多く、なかなか楽しませてくれる。 ニューヨークの郊外にはそんな墓地が沢山あって、世界的に有名な著名人も数多く埋葬されている。その代表的な2つの墓地をご紹介しよう。
ブルックリンにあるグリーンウッド・セメタリー
マンハッタンから車で30分、地下鉄では”R”トレインの”Atlantic/Barclay Center”駅から1ブロック。1838年に創立されて今は国定歴史建造物に指定されている。478エーカー(約71万坪)の広大な敷地に56万の墓標があり、政治家、軍人、作家の著名人が住人のリストとされているが、日本人に知られている住人は少ないものの、レナード・バースタイン、初代駐日大使のタウンゼント・ハリスなどが葬られている。
1:まるでお城のような建物があるグリーン・ウッド墓地
2:故人を偲ぶクリエイティブなお墓が沢山あるグリーンウッド墓地
3:常にお花が献花されている、レナード・バーステインのお墓
もうひとつこのグリーンウッド・セメタリーで見ておきたいのは、日本を代表する彫刻家の川村吾蔵が、師匠のマクニモスと共作した”Civic Of Virture”という彫刻だ。もともとはマンハッタンの市庁舎に置かれていたが、痛みが激しく像を囲むようにあった池の部分は取り除かれてここに移設されているが、今見ても躍動感にあふれている。川村吾蔵は、ロダンに助手にならないかと言われたが、その誘いを断ったという逸話がある彫刻家で、彼とマクニモスによる作品はマンハッタンのワシントン広場の凱旋門、ニューヨーク図書館、プリンストン大学にも見ることができる。
4:川村吾蔵の代表作のシビック・オブ・バーチュー像
ブロンクスにあるウッドローン・セメタリー
マンハッタンから車で40分、グランドセントラル駅からハーレムラインでノース・ホワイト・プレイン下車、地下鉄では”4”トレインの終点ウッドローン駅下車。400エーカー(60万坪)という広大な敷地があり、ここも国定歴史建造物だ。良く手入れされた樫の古樹、楓、桜の木々で季節毎に違った風情がある。ここで是非訪れてみたいのは、タカジアスターゼやアドレナリンの研究で世界的に有名になった高峰譲吉のお墓。5番街のセントパトリック教会で行われた葬儀の際には君が代がニューヨークで初めて斉唱された。今でも製薬会社の方々が訪れているそうだ。
5:今尚、製薬会社の方々が訪れる高峰譲吉のお墓
野口英世のお墓もある。1928年5月21日、英領ゴールドコースト・アクラで黄熱病で病死、6月15日にウッドローン墓地に埋葬された。奥様のメアリー・ロレッタ・タージスさんも近くに埋葬された。
6:野口英世のお墓
奥様のメアリー・ロレッタ・タージスさんも共に眠っている
そしてジャズファンなら見逃せないのがマイルス・デイビス、デューク・エリントン、ミルト・ジャクソン、マックス・ローチ、ジャッキー・マクリーン、ライオネル・ハンプトンなどのお墓。生前の音楽的な個性が感じられるデザインになっていてなかなか面白い。
7:マイルス・デイビスのお墓
マイルスの独創性とセンスには少しもの足りない感じのお墓のデザイン
8:イリノイ・ジャッケーのお墓 派手で明るいトーンが良く現れているお墓
9:ジャッキー・マックリーンのお墓
少しイントネーションを外したトーンのイメージが良く現れている
移民の国らしく、いろんな趣向を凝らした、というか故人に思いを馳せた墓標があり、お墓めぐりもなかなか楽しめる。どこの国も先祖を大切に思う気持ちに変わりはない。納涼にはならないが、ニューヨークでお墓めぐりはいかがだろう。夏の納涼・墓参りというわけにはいかないが。
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