第61回 弱みを無くす

文&写真/樋口ちづ子(Text and photo by Chizuko Higuchi)

春一番のバラ
Photo © Chizuko Higuchi

語弊があるかもしれないが、ざっくばらんに言って、動物の世界が弱肉強食であるように、人間世界もそうである。人生はいろいろな意味で、不公平である。しかしそれをはっきり言ってしまうと、悪事を働いたような後ろめたさを感じる。公平であってほしいと願いながら、現実世界の不公平さは誰でも知っている。最近、ビル・ゲイツの言葉を読んで、スッキリした。彼は言う。「人生は不公平である。誰もがこの事実を知っている。つべこべ言わずにただ克服しなさい」。きっぱり言い切っているから説得力がある。

我々の住む米国は、世界中から富裕層が集まっている。と同時に、ここはアメリカか、と疑うほどの貧しい地域もある。同じこの国で今を同時に生きながら、私たちはまるで別世界に住んでいる。

私は長い間、自分の弱みに苛まれ続けた。これさえ克服できたら、あとは大丈夫だと、若い時から分かっていた。自分の弱みはやがて根強いコンプレックスになっていった。だからこそ、私とは種類は違っても、弱みを持っている人を見ると、きっと重荷になっているだろうなと同情する。いらぬおせっかいだが、コンプレックスの出所をはっきり分析することができれば、乗り越える方法が見えてくる。

多数の人の弱みの一つが、英語が話せない、ということだ。言葉が自由に話せないのは不便極まりないし、第一、毎日何らかの場面で悔しい思いをしているはずだ。日本語だったら自由に話せるのに、抗議できるのにと。言いたいことを言えないのは辛い。言えない自分に失望し、苛立ちが固まってコンプレックスになる。傍目から見ると能力があり、努力家で人間もできているのに、前に出てこない人は、大抵、英語でひっかかっている。

こんなことを聞いた。日本人、台湾人、韓国人の3人の若者が一斉に英語を勉強し始めたら、誰が上達するのに一番時間がかかるか? 答えはそう、日本人。理由は、日本語の特徴にあるのだという。日本語は非常に優れた言語で、豊富な語彙とさまざまな言い回しがあり、細やかな情感を使い分ける。日本人はそれをそのまま英語に翻訳して表現しようとし、適切な英語が見つからず、英語はどうも苦手で、となってしまうのだそうだ。実は英語は日本語に比べ、それほどたくさんの語彙や表現がなく、日本語をそのまま英語に置き換えるのにピッタリな言い回しがない場合も多いらしい。だから日本語をそのまま翻訳できると勘違いしていることが、いつまでも上達しない原因だとか。一方、韓国語と中国語は日本語に比べ、それほど語彙も言い回しも多くはないから、英語の語彙と決まりきった表現とにすんなりマッチして、彼らはマスターしやすいのだそうだ。妙に納得する部分もある。日本人として、少し元気づく。さらに日本人独特の恥の文化、完璧主義がここでは裏目に出て、自信のない時は話さない。話さないからますます下手になる。ほかのアジア人はよく喋り、英語もいつの間にかうまくなっている。

英語で仕事をしている私は特別うまくはないが、それでも口がさけても英語が苦手で、とは言わないと決心している。しかし、明らかにネイティブには負けるから、彼らと同じレベルの英語を話したいと努力し続けている。日本語と同じように英語を話せたら、どんなに気持ちが良いだろう。自由になるだろう。

第二の弱みは運転ができないことである。若い人の中には皆無だが、現在70代、80代の女性の中には運転できない人が結構おられる。外出は夫婦一緒で、いつも夫が運転すれば不自由はない。困るのは、年老いて夫が健康上の理由で運転できなくなった時、あるいは先に亡くなってしまった時だ。そういう女性は途端に外出できなくなり、世界が狭まる。せめて運転ぐらいしておけばよかったのにと、気の毒に思う。

第三の弱みはお金がないことだ。お金は生活の大本を支えているものだから、これがないことの恐怖は大きい。生活のすべては、お金を基準に決定される。愕然とする事実だ。お金にコントロールされないだけの経済的自由を得た時、本当に解き放たれる。もうすべてのことから自由になれる。

運転ができる、英語が話せる、お金に困らない。これらの大きな弱みがなくなれば、しあわせと呼ばれるものは、自分の考え方でどのようにも手に入れることができる。弱みを無くすと自由になる。

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう43年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 2024年10月4日

    大谷翔平選手の挑戦
    メジャーリーグ、野球ボール 8月23日、ロサンゼルスのドジャース球場は熱狂に包まれた。5万人...
  2. カナダのノバスコシア州に位置する「ジョギンズの化石崖群」には、約3 億5,000 万年前...
  3. 世界のゼロ・ウェイスト 私たち人類が一つしかないこの地球で安定して暮らし続けていくた...
  4. 2024年8月12日

    異文化同居
    Pepper ニューヨーク同様に、ここロサンゼルスも移民が人口の高い割合を占めているだろうと...
  5. 2024年6月14日、ニナが通うUCの卒業式が開催された。ニナは高校の頃の友人数名との旅行...
  6. ラブラドール半島のベルアイル海峡沿岸に位置するレッドベイには、16世紀に繁栄したバスク人による捕鯨...
  7. フェムケアの最新事情 Femcare(フェムケア)とは「Feminine」と「Car...
  8. 日本では、何においても横並びが良しとされる。小学校への進学時の年齢は決まっているし、学校を...
ページ上部へ戻る