アドベンチャー

山の中の野花

今、私たちは歴史上経験したことのないチャレンジに遭遇している。一つは地球温暖化が叫ばれ、異常気候が続いていること。もう一つは、テクノロジーの想像を超える発達で、未来の予測が難しくなったこと。5年先でさえ、予測を遥かに超えるものになるだろうといわれている。分からないということだ。AIがもたらす便利さを歓待する一方で、反対に人間が支配されてしまったらどうなるのかと不安もある。社会の仕組みや生活の仕方があっという間に激変してついて行けない。激変したという認識は地域により温度差はあるが、地方もすぐに大きく変わることは目に見えている。

新分野で頭角を現した若者が数年のうちにビリオネアになり、そうではない我々一般人との格差は広がるばかりだ。ミリオネアではない、ビリオネアだ。ミリオンなら理解できるが、ビリオンという数字は、私には頭で理解したつもりでも現実的な感覚としてはつかめない。経験したことのない世界は推測できない。しかもビリオンの世界に住んでいる人たちがたくさんいるという。一体どんな感覚なのだろう。日に日に変わる社会にもうついて行けないと思う一方で、いや、未来社会から逃げてはいけないと理性が言い、行ったり来たりする。現代人は落ち着かない。

そんな過渡期の世界だからこそ、精神衛生上のバランスをうまく取る必要がある。それを意識していないと、やがてどこからか静かにディプレッションが起こる。私のシェルターは、自然に帰ること。自然こそ、昔も今も、そして未来も変わらずある。大都会でも田舎でも、自然はどこの町の片隅にもあり、花は太陽と水と土がある限りけなげに咲いている。山も森もいつもそこにどっしり腰を構えている。ここが私の魂の避難所だ。

生活の中で息詰まる時、私は思わず外に飛び出ている。青空を見上げている。まるで窒息寸前の動物が空気を探すかのように。初冬の清冽な青空が頭上に広がり、澄み切った大気を吸い込む。大丈夫だ。変わらず存続し信頼できるものがここにある限り、何が来ても恐れず進んでいけば良いのだと自分に言い聞かせる。自然は私の精神科医だ。言葉で説得される必要はない。大切なことは言葉にならない。変わらず広がる青空のほうが、よほど説得力がある。自分の感覚を信じて、自分の体が耳元でささやいている言葉に耳を傾け、青空を見上げて進めば良い。

秋から初冬にかけては、日本に里帰りしたり旅行したりする人が多い。この季節、日本は最高だ。暑からず寒からず。四季のある日本の紅葉を楽しめ、食べ物の美味しさは格別だ。米国と日本の生活を新鮮な目で比較すれば、両者の長所、短所が理解でき、自分の今の生活にそれぞれの長所を取り入れれば地に足が付いたグローバリゼーションだ。

私の場合は今年は西の端のカリフォルニアから東の端のフロリダを初めて訪れた。飛行機の乗り換え地点ともいうべき地理的中心地点のダラスで、東西南北から集まった群衆とすれ違い、私たちはまた全米各地に散って行った。夏にフローレンスを訪れた時はロンドンのヒースロー経由で、ヨーロッパ各地から集まった人々がここで乗り換え、また各地に散って行った。その大群衆の一人となる貴重な体験をした。大雑踏の波の中で翻弄される小舟のように揺れ動いたが、そんな危機には動物の本能が顔を出し、どこからか勇気が湧き出る。目指す飛行機がいつどのゲートから出発するのか、目まぐるしく動く電光掲示板をにらみ、一瞬のうちに確認し、よしっと出発する。それはまるで自分の目指す道を迷路の中から探し出すような感覚だった。どこに行くのか、自分で選んで踏み出すしかない。誰の手助けもない、連れて行ってもくれない。自分一人で意思決定をするしかない。孤独と恐怖と背中合わせになった自分に頼る勇気、信じる勇気。どこに行き着こうと、それは私が選んだ道。

明日はどんな社会になっているか分からない。にもかかわらず、私たちは平気な顔をしてがむしゃらに風を切って出かける。これからは毎日の生活でさえアドべンチャーだ。冒険だから想定外が起こって当然。そう覚悟してしまえば良い。覚悟すれば冒険への恐怖は、何が起こるか分からない楽しみに豹変するかもしれない。そう願って野花を見つめる。

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樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

樋口ちづ子 (Chizuko Higuchi)

ライタープロフィール

カリフォルニア州オレンジ郡在住。気がつけばアメリカに暮らしてもう43年。1976年に渡米し、アラバマを皮切りに全米各地を仕事で回る。ラスベガスで結婚、一女の母に。カリフォルニアで美術を学び、あさひ学園教師やビジュアルアーツ教師を経て、1999年から不動産業に従事。山口県萩市出身。早稲田大学卒。

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