日本と海外をつなぐ架け橋に
女子プロレスラー 坂井澄江さん

Text by Haruna Saito

PEOPLE SPECIAL
様々な業界で活躍中の話題の人に、過去、現在、そして未来について聞く。

試合に魅せられて
柔道からプロレスへ転向

柔道の先生を父に持ち、こどもの頃から柔道を続けてきた坂井さんは、もともとプロレスは好きではなかったという。転機が訪れたのは、友人に誘われて試合を観に行った時だった。

「当時はクラッシュギャルズのような歌も歌える女子プロレスラーが大人気で、私が所属していた会社の柔道部には、プロレスラーを目指している人もいました。ある日、プロレスの試合に連れて行かれた時に、「おもしろい!」と気持ちが変わったんです。柔道を辞めてプロレスに転向したのは、25歳の時でした」

コーチであるジャガー横田さんのもと、日々練習に励んだ坂井さん。しかし、憧れだったライオネス飛鳥さんとのタイトルマッチを控えた前日、複雑骨折をしてしまう。「試合には出られませんでした。一生懸命がんばってチャンスを手にしたのに、バカみたいだと思って。そんな時、WWEというアメリカのプロレスのビデオを観たんです。日本のプロレスも感情移入して泣けるんですが、アメリカはそれだけじゃなくて。レスラーのことを何も知らなくても、一人ひとりの個性が見えてストーリー性があり、盛り上がりがすごかったんです。アメリカに行きたい、と思うようになりました」。2002年、坂井さんはボストンにあるプロレス道場へ2カ月間修行をしに行った。

「日本だと、自分の意見があっても言えないことが多い。一方、アメリカでは自分がどうしたいのか言わないとダメで。最初は何も話せなくて、すごく悩んで大泣きしたこともありました。でも、初めて意見を言えてからは変わりましたね。自分の意見が間違っているかどうかは、言ってみないと気づかない。日本も海外もいいところ・悪いところが見えてきて、海外に出て本当に良かったと思います。

また、アメリカのプロレスラーはマイクを持たせると話が上手で、エンターテインメント性がすごいんです。お客さんが何を観たいかを考えながら動くのは、やりがいがあっておもしろかったです」。帰国後、日本を窮屈に感じた坂井さんは、その半年後に団体を辞めてアメリカに戻り、現地のプロレス団体ROH(Ring of Honor)に所属を決める。2018年にはROHが運営するWomen of Honorの初代チャンピオンに輝いた。

©︎BBM

プロレスをもっと盛り上げたい

同じく2018年、新日本プロレスがロサンゼルスに道場をオープンし、アメリカ進出を果たした。2019年4月6日にはNYの「マディソン・スクエア・ガーデン」で、ROHと新日本プロレスが合同で興行する。チケットはなんと、13分で売り切れたのだそうだ。

「今はWWEにも日本人選手が5人いて、そのうち2人はチャンピオン。ROHの現在の女子チャンピオンも日本人です。日本人プロレスラーは、どんどんアメリカに進出しています。私は日本の女子プロレス団体スターダムとROHの架け橋となり、日本人がアメリカで試合できるようにサポートしています。アメリカに来てチャンピオンになれたのも嬉しかったですが、次につなげられたのも良かったと思っています。引退するまでに、プロレスの魅力を一人でも多くの人に伝えて、しっかり次につなげていきたいですね」

PROFILE
坂井澄江(さかい すみえ)
1997年3月に吉本女子プロレスJd’入門。同年4月20日後楽園ホールでデビュー。2002年よりアメリカ東海岸を中心にプロレスラーとして活動。2018年よりRing Of Honorと契約。ニュージャージー在住。

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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