Vol.37 ヴァイキングが刻んだ足跡
ランス・オー・メドー国定史跡
− カナダ ニューファンドランド島 −
- 2023年12月10日
- 2023年12月号掲載
世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2023年1月現在、167カ国で1157件(文化遺産900件、自然遺産218件、複合遺産39件)が登録されている。
カナダの大西洋側、ニューファンドランド島の北端に位置するランス·オー·メドー国定史跡は、ヴァイキングの謎めいた足跡が刻まれるエリア。この地には、北アメリカにおいて確認された最古のヨーロッパ人の住居跡が残っている。ヴァイキングとは8世期末~11世紀にかけて、スカンジナビア半島やユトランド半島を本拠として西ヨーロッパ沿海部へと進出していった人々のこと。ここには11世紀にヴァイキングが居住していた証が残っており、ヨーロッパ人が新大陸に定住した初めての瞬間を物語る貴重な遺跡となっている。
中世アイスランドに伝わる北欧人探検家の航海が記録された『ヴィンランド·サガ』によると、ヴァイキングのレイフ·エリクソンが997年、グリーンランドから大西洋を西へと航海に出たとされている。彼は新しい土地を発見し、「ヴィンランド」と名付けてその地に拠点を建設した。それまで単なる伝説と考えられていたヴィンランドが、ランス・オ・メドーの発見によりにわかに注目されることとなったのだ。
1960年に発掘されたこの史跡は、木組みの泥炭芝生でつくられた8つの建造物で構成されている。居住が3つ、鍛冶場が1つ、作業場が4つ。どれもグリーンランドやアイスランドといった北欧の国々で同時代に発見された建物と同じ様式で建てられている。遺跡から発見された生活道具は、鉄製のものを多く含む。鍛冶場が見つかっていることからもこの地で鉄の生産が行われていたことが想像できるだろう。当時、アメリカには鉄を造る技術がなかったため、この事実は大きな注目を集めた。遺跡からは船の修理に使われたと考えられる鉄の生産や木工などの痕跡が残っており、この地に上陸した人々がさらに南へ航海していたと推測されている。
ランス·オー·メドー国定史跡は、その歴史的な価値と保存状態の良さから1978年に世界文化遺産に登録された。
ヴァイキングの冒険の痕跡をたどる
入り江に面した集落には、鍛冶場や製材所などの復元された建物が建っている。木組みのフレームに泥炭を積み重ね、その上に草で葺いた屋根が乗せられている様式だ。遺跡には当時の様子を解説するパネルが随所に設けられており、未開の地に入植したヴァイキングたちの暮らしぶりがうかがえる。周辺に広がる丘には遊歩道が整備されていて散策できるようになっており、ビジターセンターではより詳しい説明を見ることができる。ランス·オー·メドーの集落跡と入り江を一望できる丘の頂上に立てば、北アメリカに最初に足を踏み入れたヴァイキングの当時の興奮に触れられるような気がしてくる。自然と歴史が融合した美しい景観に囲まれたユニークな遺産の地で、人類の歴史における重要な節目を肌で感じよう。
遺産プロフィール
ランス・オー・メドー国定史跡
L’Anse aux Meadows National Historic Site
登録年 1978年
遺産種別 世界文化遺産
https://parks.canada.ca/lhn-nhs/nl/meadows
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