押さえておきたい
バイリンガル教育のカギ

アメリカで子育てをする日本人家庭にとって、バイリンガル教育はいつの時代でも重要課題だ。日本語も英語もどちらも中途半端にしか習得できていない「セミリンガル」は昔から懸念されているが、昨今では「ゼロリンガル」と呼ばれるらしい。正しく言語を習得し、バイリンガルとして将来の道を切り開けるように、押さえておきたいポイントを専門家に聞いた。

幼児期の日本語教育は
人格形成の大事なステージ

幼児期は、どのように過ごすかでこどもの人格形成の基盤が決まるとても大事な時期です。この時期にしっかりと取り組んでいただきたいのが、第一言語である母語を育てること。第一言語はコミュニケーションの手段だけでなく、思考力や学習力の土台にもなるものです。

第一言語をしっかり習得していないと、のちにお子さんの考える力が育たない可能性が生まれます。さまざまな研究でも証明されている通り、土台となる言語が中途半端だと、次に学ぶ言語も中途半端になる傾向があるのです。

花にたとえてみましょう。根がしっかりしており健康に育った花は、横から芽生えた新たな花もしっかりと育ちます。中途半端にしか成長できなかった花からは、新しい芽が出てもきちんとした蕾になりません。言語習得もそれと同じなのです。

より多くの言葉を吸収させる

日本人の保護者であれば、お子さんの母語も必然的に日本語となるでしょう。幼児期からいきなり英語と日本語を両方習得させるのではなく、まずは母語と母文化の基礎をしっかりと作ってあげることが大事です。

幼児期に発達するのが、いわゆる日常会話で使われる生活言語。まずは話し言葉を育てます。お子さんとコミュニケーションを取るうえで心がけて欲しいのが、会話のなかにいろいろな単語をしっかりと入れること。絵本の読み聞かせや歌、リズム遊びなどを通して、自然に言葉を吸収できるようにしましょう。テレビ番組やビデオを見るのも有効です。ただ見せるだけではなく、保護者も肩を並べて、画面に出てくる単語を使って会話をしたり、お子さんに問いかけたり質問に答えたりと、キャッチボールをするようにしましょう。

5歳くらいからは、読み書きといった学習言語に入っていきます。それまでに十分な単語を吸収しておかないと、読み書きを教えても定着しません。「カメ」という単語を知らないのに書く練習をさせても、頭には入っていかないのです。音による生活言語の時代に、より多くの単語をインプットさせることがカギとなります。読み書きの練習に有効なのが、童謡を歌うこと。歌ならこどもの脳にもすんなりと入っていきますし、ひらがなで書かれた童謡の歌詞を指差しながら歌うことで、日本語が読めるようになります。

日本人コミュニティがあるエリアであれば、日本人が経営するプリスクールに通わせることもできるでしょう。しかし、中西部にお住まいの場合は日本人学校がないエリアも多いので、保護者の努力が大事になってきます。幸いにも、日本には四季折々の行事が数多くあります。プリスクールに通えなくても、節分やひな祭り、こどもの日など、いろいろな行事やそれに関連する童謡などを通して、単語をインプットさせるといいでしょう。

また、なるべく周辺で日本語を話す友達を見つけ、定期的に集まって日本語で会話する時間を作ることも大切です。こどもにとっては音楽のように流れる英語のほうが頭に入って来やすく、英語との2択だと日本語が負けてしまっている家庭をよく見ます。なるべく日本語に触れる機会を多く設けてあげましょう。

英語に触れる機会を与える

ある程度日本語を吸収できるようになったら、英語に触れる機会も少しずつ与えていきましょう。歌は自然と耳に入ってくるので、CDを聴かせるのはおすすめです。踊りをつければ、ジェスチャーから意味を理解することもできます。また、YouTubeなどの動画を見せるのも一つの手です。今どきは絵本の読み聞かせをする動画などもあります。

ポイントは、お子さんの好きなものを使って英語に触れさせること。英語を嫌いになってしまったら元も子もありません。「楽しかった、またやりたい」という思いを残してあげられるように、お気に入りの歌や、日本語で読んでストーリーを知っている本などを選びましょう。

バイリンガル教育で注意すべきこと

アメリカで生活する日本人家庭でよく見られるのが、日本語のなかに英語を混ぜて使う会話です。現地校の先生から「家でも英語を喋って欲しい」と言われることもあるでしょう。しかし、中途半端な日本語、英語で会話をすると、お子さんも変な日本語、英語を覚えてしまいます。幼児の段階でしっかりと日本語の土台を築き、小学校では自信を持って英語に取り組めることが理想です。

正しい言語を習得させるためには、常にきれいな日本語で会話することを徹底しましょう。お子さんが英語で話しかけてきても、そこは譲らず日本語で返すことが、強い母語を習得するうえで重要です。ご両親のどちらかがアメリカ人、どちらかが日本人の場合は、英語は英語、日本語は日本語と、混在せずにきちっと分けて会話をするように心がけてください。メリハリをつける習慣がついているこどもは、大人になってもきちんと使い分けができます。

バイリンガル教育において重要なのは、どの文化・言葉も尊重できる人間になることです。そのためには、お子さんの前でアメリカや日本の文化の悪口、ネガティブなことは言わないようにしましょう。こどもは親の言うことに影響されます。また、日本語にせよ英語にせよ、嫌いにならないようにすることが最重要です。言語の勉強を長続きさせるためには、好きなものを見つけてそこから間口を広げていくと良いでしょう。

取材協力
ニューヨーク育英学園
岡本徹学園長

東京芸術大学卒。小学校教員を経てメキシコ国立大学大学院へ留学。修了後、79年にJapanese Children’s Societyの設立に参画、84年に2代目学園長となる。東海岸唯一の幼小一貫教育機関として日本の学習指導要領に沿った教育を実施。全日制部門小学部の英語教育では週10時間のクロスメソッドを導入。ウィークエンドスクールやフレンズアカデミー、りんごラーニングセンターなども設立。
https://japaneseschool.org

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