第85回 オンライン授業の心配

2020年10月、ニナの大学生活がスタートした。しかし、新型コロナウイルスの影響で、最初の学期は100%オンライン授業が決定。遡ること4月に開催されたオリエンテーションでは、「10月まではまだ時間がある。新学年が始まる頃にはコロナは収束するだろうと大学側は楽観的に考えている」とカウンセラーが話していたが、その見方は楽観的過ぎたようで、状況は半年後も改善しなかった。

新学期が始まった2週間後、大学のペアレント・アンド・ファミリーエンゲージメントという部門の主催で、「親の疑問や心配を解決するためのZoomミーティング」が開催された。係の人の説明によると、事前に集めた質問は、その多くがオンライン授業に関連するものだったそうだ。「キャンパスでほかの学生と顔を合わせないので友人を作れないのではないか。どうやって大学生としての社交生活をスタートさせればいいのか」「オンラインクラスだと成績のつけ方が従来とは変わってくるのではないか」「もし途中でオンラインからハイブリッド(対面式授業との混合方式)に切り替わったら寮に入れるのか」「ハイブリッドになってキャンパスに通うことになった時、寮や教室での衛生面の管理は万全と言えるのか」「オンライン授業を家で受講するにあたって、親が手伝えることはあるか」など。

アメリカの親は、子が大学生になると完全に自立させ、子どもに任せるのだと思っていたが、実に細かいところまで心配し関わるのだと知り意外だった。しかし、それは現在、コロナ禍という特殊な状況だからなのか、それとも関わろうとする親があくまで少数派なのかどうかは分からない。

学生だけでなく大学も大変

寄せられた中で私も気になっていた「途中からハイブリッドになった時は寮に入れるのか」という質問に対して、大学側は州からの指示でガイドラインが頻繁に変わるため、今日返答したことが明日変わる可能性もあると前置きしたうえで、「次の学期はおそらくオンラインのままだろうが、さらに次の学期でハイブリッドになったとしても、寮に途中から申し込まなくてもいいように、100%オンラインで単位が取得できる選択肢を用意する予定だ」と返答した。これで一安心。というのも、これまで3人部屋、2人部屋だった寮だが、コロナの感染リスクを抑えるため相部屋がなくなっていて1人で2人部屋や3人部屋を利用していると、100%オンラインにも関わらず入寮したニナの友達が話していたからだ。ハイブリッドになって学生が一斉に寮に申し込んでも、それだと部屋数が足りない……。

また、「オンライン授業を家で受講するにあたって、親が手伝えることはあるか」との質問に大学は「万全のネット環境を整備してあげてほしい」と返答していた。これは他人事ではなく、ニナもつい先日、「今日、クラスで小テストがあるんだけど、途中でネットが落ちないか心配。この間も最後の1問の時にネットが落ちた」と話していた。ただし、「ネットが不安定なせいで学生が不利になる可能性については、教員側も踏まえたうえでオンライン授業を行っている。ネットの不備が発生した際には教員に報告するように」と大学側も話していた。

一部には対面式の講義ではないのだから学費をフルで払う必要はないのではないかという議論もあるが、大変なのは学生だけでもなければ、もちろんその親でもない。大学側も大変なのだ。まさか想定もしていなかった状況に、新しいスタンダードを導入しながらシステムを構築することに四苦八苦している様子が今回の質疑応答から伝わってきた。今はとにかく、リアルな大学生活が経験できる世の中に戻ってほしい、と願うばかりだ。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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