米司法省、コンプライアンス・プログラムの評価ガイダンス2020年改訂版を発表

情報提供/ピルズベリー法律事務所

文/カロリーナ A. フォーノス、マーク R. ヘレラー、マリア T. ガレノ、アダム マルク

有効な企業のコンプライアンス・プログラムは、内部及び外部から得られた教訓を基に常に変化し、従業員及び第三者にその理解が浸透し、並びにその機能を効果的に発揮するための十分なリソースが配分されているものでなければならない。

米司法省(United States Department of Justice)は、2020年6月1日、調査対象企業に関し、「起訴、司法取引及びその他合意に係る交渉を行うかどうか」を決定するにあたり、その企業のコンプライアンス・プログラムをどのように評価するかについて、ガイダンス(以下「2020 年改訂版」)を更新しました。2020年改訂版は、2019年4月30日に発表された2019年のアップデートをベースにしており、以下の3点に力点を置いています。

1. 当該企業のコンプライアンス・プログラムは適切に設計されているのか?

2. コンプライアンス・プログラムは真摯かつ誠実に(earnestly and in good faith)運用されているか?すなわち当該プログラムが効果的に機能するための十分なリソースが配分され、且つ担当者に妥当な権限が与えられているか?

3. コンプライアンス・プログラムは実際に機能しているか?

今回のアップデートにおいて、米司法省は従前より公表している基準(昨年のニューズレターで説明しておりますので、そちらもご参照ください)を変更することはしていません。もっとも、2020年改訂版は、個々の企業におけるカスタマイズされたプログラムの必要性を強調しており、各企業が個々のリスク要因に基づいて継続的にプログラムを適応・進化させ、個々の企業が自ら学んだ、及び市場で得られた教訓に基づいてプログラムを改正することを求めています。さらに米司法省は、コンプライアンス・プログラムを評価する際に、検察官が考慮すべき事項を提示しています。

2020年における適切に設計されたコンプライアンス・プログラムは、
自社内及び社外での教訓を考慮して設計される必要がある

2020年改訂版において、米司法省は、画一的なコンプライアンス・プログラムは適切ではないと再度強調し、「企業の規模、業界、地理的な活動領域、規制の状況、並びにその企業の活動に関わる内部的及び外部的諸要因」などの多くの要因がコンプライアンス・プログラムに影響を与えると述べています。更に、米司法省は、企業が外国の法令に対応するため、ある特定のアプローチでコンプライアンス・プログラムを構築する必要があり得ることも認識しています。これは、各企業がコンプライアンス・プログラムに関して熟考し、企業が最終的に採用したコンプライアンス・プログラムの仕組みについて、その根拠を難なく説明できることが必要であることを明確にしています。

コンプライアンス・プログラムの仕組みにとどまらず、2020年改訂版において、米司法省は、社内の部門を越えて、「業務上のデータや情報」を考慮しプログラムを常に進化・改善させていく必要性を強調しています。また、同省は、企業が自社の経験からだけでなく、同じ業界・同じ地理的エリアでビジネスを行う他企業の事例における教訓からも学ぶ必要があることをも強調しています。つまり、米司法省は、自社のデータや情報だけでなく、市場におけるリスクにも注意を払う必要があることを指摘しています。

不祥事の発見と防止が、適切に設計されたコンプライアンス・プログラムの本来の目的です。米司法省は2020年改訂版において、これらの目的を共有することの重要性を強調しています。企業は以下の点を考慮すべきです。

•全従業員及び第三者が、コンプライアンス・プログラム関するポリシー及び手続に、アクセスできるか

•参照の便宜を考慮し、検索可能なフォーマットでポリシー及び手続を公表しているか

•関連する従業員の注目度が高いと思われる特定のポリシーへのアクセスをトラッキングしているか

•「オンライン又は対面で、従業員が研修を通じて生じた疑問点の質問を行うことができるプロセスがある」

•「研修が従業員の行動や業務にどの程度の影響を与えているか」を評価しているか

これらの点が改訂版に追加された背景は明白です。企業は、適切に構築されたコンプライアンス・プログラムが従業員及び第三者に理解されるようにしなければなりません。そしてコンプライアンス・プログラムに関するポリシーと手続きがきちんと伝えられることは、「従業員がタイムリーに問題を認識し、適切なコンプライアンス、内部監査又はその他のリスク管理部門に問題を提起できるようにする」ために非常に重要です。

コンプライアンス・プログラム自体が優れたものであるかどうかにかかわらず、実際には、従業員や第三者が企業の目や耳となります。したがって、これらの者が不正行為を報告するためのメカニズム(ホットラインなど)を認識し、安心して利用できるようにする必要があります。2020年改訂版で強調されているように、コンプライアンス・プログラムの有効性の一つの要件は、不正行為の通報を追跡し、調査を追跡し、報告を分析した上で、事実を認定し対応策を提示することです。また、上記の手続きは、既存のポリシーの見直し及び更新に繋がることとなります。

第三者リスクは依然として無視できないリスクです。米司法省は、代理店、コンサルタント及び販売業者などの第三者は、「不正行為を隠蔽するために頻繁に利用されている」と指摘しています。したがって、2020年改訂版では、第三者との契約にあたっては起用プロセスにおけるリスク評価のみでは十分ではなく、契約にある期間全体を通じてのリスク・マネジメントを検討することが必要であると示唆しています。これには第三者のモニタリング及びトレーニング、第三者の帳簿及び口座に対する監査権の行使、並びに第三者がデューデリジェンスにパスしなかった場合、及び不正行為を行った場合に契約関係の停止及び終了を行うなどの、実際の措置を講じること等が含まれます。

企業のコンプライアンス・プログラムは、
効果的に機能するための十分なリソースが充てられ、
これには担当者の妥当な権限が伴わなければならない

米司法省は、2020年改訂版の中で、コンプライアンス・プログラムが適切に設計されていたとしても、それが徹底されていない場合や、リソース不足であったりすると、その効果が発揮されない可能性がある点を強調しています。2020年改訂版は世界中で大きな混乱が起きている最中に発表されましたが、米司法省は、コンプライアンス・プログラムを運用するためには十分なリソースを配分する必要性を強調しています。適切なリソースを備えたプログラムには、以下が含まれます。

•担当者が、「ポリシー、管理体制、取引の適時かつ効果的なモニタリング及び/又はテストを可能にするために、関連データソースへの十分な直接又は間接的なアクセス」を得られるようにする

•関連データソースへのアクセスを制限する障害を取り除く

•コンプライアンス及びその他管理担当者の更なる訓練及び強化に投資する

•一貫性を確保すべく、調査とその結果としての対策をモニター及びフォローする

•得られた発見事項・教訓を分析した上で、コンプライアンス・プログラムを見直し改正する

重要な事項として、米司法省は、2020年改訂版において、「トップからの声(tone from the top)」という概念を拡大し、その声は文字通りのトップからだけではなく、「すべてのレベル」に浸透していなければならないことを強調しています。コンプライアンスへのコミットメントは、企業のリーダーの言動から始まりますが、上級管理職と中間管理職にもその使命は共有されなければなりません。そして、コンプライアンス担当者には十分な裁量と権限を与え、当該担当者が組織の上層部に報告を上げることが可能な体制にする必要があります。コンプライアンス担当者に権限を与えるようなリソースがなければ、いかに優れたコンプライアンス・プログラムであっても効果的なものにはならないと考えられます。

企業のコンプライアンス・プログラムは、不正行為を防止・発見することができることによって、実際に機能する

効果的なコンプライアンス・プログラムの目標は以下のとおり直截です。(1)潜在的な不正行為を発見し、(2)不正行為を調査するためのリソースを配分し、そして(3)発見された不正行為に対処することです。不正行為の原因を特定し根本的原因を分析することにより、以降同様の事象を防止するために、どの程度の是正措置が必要かを評価することができます。既存システムが機能しなかった場合には、根本的原因の分析によって特定された問題に対処するために新たなシステムを速やかに導入すべきです。

さらに、不正行為に対し適切な懲戒処分がなされていない、懲戒処分が一貫して適用されていない場合には、たとえプログラムが適切に設計されていたとしても、米司法省の検察官は当該プログラムを有効であるとは評価しないでしょう。不正行為が発見されているにもかかわらず、適切な是 正措置がとられない場合も同様です。また、コンプライアンス・プログラム遵守のためのインセンティブ(又は遵守しない場合の懲戒措置)がなければ、不正行為を防止することは困難であると考えられます。

米司法省は、2020年改訂版において、自社の不正行為のみでなく、類似のリスクに直面している他企業の不正行為から得られた教訓も考慮して、自社のコンプライアンス・プログラムをカスタマイズさせる必要性を強調しています。企業は、内部統制システムのテスト、コンプライアンス・データの収集及びその解析を分析、並びに(あらゆるレベルの)従業員及び第三者への定期的なインタビューを行うことにより、既存のコンプライアンス・プログラムを継続に見直し、監査していかなければなりません。そうすることにより、実務上コンプライアンス・プログラムが機能していることを確立することができます。

まとめ

2020年改訂版は、米司法省の2019年のガイダンスで策定された基準を土台に作られており、企業が効果的なコンプライアンス・プログラムを構築し実践することができるように企図されたものです。2020年改訂版は、コンプライアンス・プログラムが単に紙上のプログラムではなく、時間の経過とともに進化するダイナミックなプログラムでなければならないと念を押しています。企業は、特定のリスクや過去事例に応じてコンプライアンス手続きを適応させ、コンプライアンス関連のプロセスにより多くのリソースを投じ、社内外のデータや教訓を分析し、そしてリスク特性に応じ適切な措置を講じていかなければなりません。これらはいずれも、2020年以降に米司法省検察官が事案分析する際の重要な要素となります。不正行為の予防及び発見のための効果的かつ実際に機能する体系的なコンプライアンス・プログラムの構築は、米司法省の捜査があった場合に企業が自らを守るための大きな助けとなります。

本稿の原文(英文)につきましては、こちらをご参照ください。

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ピルズベリー法律事務所 (Pillsbury Winthrop Shaw Pittman LLP)

ライタープロフィール

1世紀近くにわたり、日本企業の事業拡大や紛争解決に助言してきたアメリカ大手法律事務所。弁護士総数700人以上。多くの日・英バイリンガルの弁護士・スタッフが日本企業に法律サポートを提供。
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