インターネット上では、会社の名誉・評判を毀損するような虚偽の投稿をはじめ、著作権侵害、プライバシー侵害、詐欺など他人の権利を侵害するような情報が多く流通しており、会社を悩ませています。
日本ではプロバイダ責任制限法により、権利侵害情報を流通させた者に関する情報(以下、発信者情報)の開示請求権が定められています。外国の事業者であっても、一定の場合には日本の裁判所の発信者情報開示請求権の対象に含まれると考えられてきました。他方で、米国では従来、ディスカバリという証拠開示手続きの中で発信者情報の開示請求が認められています。米国に所在する企業に対して発信者情報開示請求を行う場合には、日本の手続きと比較して、米国の手続きを利用したほうがより緩やかな条件でより多くの情報を、より実効性のある方法でより迅速に収集できる場合が多いと一般に考えられます。
本稿では、ディスカバリを通じた米国の発信者情報開示の概要について説明します。
ディスカバリの流れ
米国では証拠収集の一環として、民事訴訟の当事者には、訴訟相手や第三者から訴訟に関連する情報の不遵守に対して、金銭的あるいは刑事罰もあり得る法的制裁を伴う形で開示を求めることが認められており、この手続きはディスカバリと呼ばれています。ディスカバリにはいろいろな証拠収集類型がありますが、発信者情報開示請求では文書提出を求める令状(Subpoena)を利用します。
この場合、まずは米国の州裁判所において、氏名不特定の状態の被告(John Doeという仮の名前を使うことが一般的)に対して民事訴訟を提起し、その後、訴訟に関連する情報であることを理由に、サーバー事業者に対して、被告を特定するのに十分な情報につき文書提出を求めるディスカバリ請求を発することになります。
ディスカバリ手続きの利点
米国のディスカバリ手続きは、日本の発信者情報開示請求手続きと比較して以下のような利点があると考えられます。
(1)開示請求の要件が緩やか
日本のプロバイダ責任制限法では開示請求が認められるための要件は限定的なものとなっており、それに伴う制限も多くあります。他方で、米国のディスカバリ手続きについては開示請求の要件は比較的緩やかと考えられます。たとえば、日本のプロバイダ責任制限法では、①特定電気通信による情報の流通によって、②自己の権利を侵害された者が、③開示関係役務提供者に対して情報開示請求を行うことが必要です。しかし、米国のディスカバリ手続きについては①および③に相当する制限はなく、訴訟に関連する情報であれば幅広く開示請求が可能です。
(2)開示請求できる対象が広い
日本のプロバイダ責任制限法では、開示請求できる対象となる情報は総務省令で定める情報(氏名、住所、電話番号など)に限定されています。他方、米国のディスカバリ手続きについては、訴訟に関連する情報であれば幅広く収集可能であり、開示請求できる情報は広いと考えられます。
(3)実効性がある
米国の会社が日本の裁判手続きに従うかどうかは、不明な場合が多いといえます。他方で、米国のディスカバリ手続きには厳しい制裁もあることから、合理的な米国の事業者は法的に回避し、または争う手段がなくなれば通常はディスカバリ義務に従うと考えられ、より実効性が担保されているといえます。
(4)迅速に手続きが進む場合が多い
日本のプロバイダ責任制限法と米国のディスカバリ手続きでは、米国の手続きのほうが開示に要するまでの時間が迅速に進む場合が多いと考えられます。
留意点
ディスカバリの法的な根拠としては、米国法に基づく請求だけでなく、日本法に基づく名誉毀損などの請求を根拠に、合衆国法典第28編第1782条(a)項「外国および国際法廷並びにその当事者のための援助」に基づいて、米国の裁判所からディスカバリの援助を受ける方法や、著作権侵害であればDMCA(デジタルミレニアム著作権法)の手続きを用いる方法も考えられます。なお、発信者情報開示手続きで情報開示を請求しても、情報の流通者が必ず特定されるわけではないことにも留意が必要です。
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