Vol.44 古代生物から地球の歴史を紐解く
ミステイクン・ポイント
− カナダ ニューファンドランド&ラブラドル州 −

世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2025年1月現在、168カ国で1223件(文化遺産952件、自然遺産231件、複合遺産40件)が登録されている。

約6億年も昔の生物たちの姿が鮮明に残るミステイクン・ポイントは、世界中の研究者から注目を集めている。©︎Richard Droker/flickr

カナダのニューファンドランド島南東部に位置するミステイクン・ポイントは、2016年にユネスコ世界遺産に登録された貴重な自然遺産。この地域には約17キロにわたる海食崖に厚さ2キロにおよぶ深海起源の地層があり、5億8000万年前から5億6000万年前のエディアカラ紀に生きた世界最古の大型古代生物の化石群が発見されている。この地域は海岸線に広がるシルト岩と凝灰岩の層から成り立っており、波や風雨の浸食により広大な岩盤が露出している。ここで発見される化石は動物の系統樹が形成される前の多細胞生物で、シンプルな形状ながらも驚くほど多様性に富んでいる。

ミステイクン・ポイントが世界遺産として評価された最大の理由は、初期の多細胞生物群の化石が極めて良好な状態で残されており、進化生物学や地質学の研究にとって重要な手がかりとなっている点だ。ここで発見された生物群は現在の動物の直接的な祖先ではないものの、絶滅した祖先の動物グループの形態や古代生物群の生態学的構造といった、地球上の生物の進化過程を理解する上で非常に重要な存在となっている。ミステイクン・ポイントで発見された化石は、長さ数センチから2メートル近いものまで10,000点を超える。化石のほとんどは深海底に生息した軟体生物で、火山灰の流入によって瞬時に埋もれたことで細部まで鮮明な状態で保存されてきた。現代の浸食によって100以上の海底の化石が発見され、その後、小さな地層から最大4,500の巨大化石が保存された大きな層までさまざまに化石が掘り起こされた。

ちなみにミステイクン・ポイントの名称は、航海者が霧や悪天候の中でこの地点をセント・メアリーズ岬と誤認したことに由来するのだそう。

世界最古の海底世界へ

ミステイクン・ポイントを訪れる際は、まずガイド付きツアーの予約が必須だ。化石の厳格な保護管理と訪問者の安全確保を目的として、現地では専門ガイドによる化石や地層の解説ツアーが組まれている。知識豊富なガイドによる解説で、エディアカラ紀の生物たちが生きた世界をより深く理解できるだろう。

広大な岩盤に点在する多様な化石群は大きな見どころの一つ。特に、葉状や紐状の生物化石がいたるところで見られ、壮大な自然の芸術作品のよう。潮の満ち引きによって露出する化石の表情も変わるため、時間帯を選んで訪れると異なる魅力を楽しめる。周辺にはトレイルや展望スポットも多いため、野生動物の観察や海岸線の絶景を楽しむのもいいだろう。海岸沿いは天候が急変しやすく足元も悪いため、観光の際は防水性のある靴と防寒具を準備することをおすすめする。

ミステイクン・ポイントの近隣にはポート・キルズやフェリーランドといった小さな漁村もあるので、地元のシーフード料理を楽しんでみてはいかが?

遺産プロフィール

ミステイクン・ポイント
Mistaken Point

登録年 2016年
遺産種別 世界自然遺産
https://www.gov.nl.ca/ecc/natural-areas/wer/r-mpe/

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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