Vol.43 ゴールドラッシュと先住民の軌跡
ロンデック=クロンダイク
− カナダ ユーコン準州 −

世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2024年1月現在、168カ国で1199件(文化遺産933件、自然遺産227件、複合遺産39件)が登録されている。

「石炭紀のガラパゴス」として知られ、石炭紀後期のペンシルバニア紀の地層が世界でもっとも広範囲に広がるジョギンズの化石崖群 ©︎ flickr/geoff dude

カナダの北西、アラスカ州との国境付近に位置するユーコン準州にある「トロンデック=クロンダイク」は、先住民トロンデック·フウェチンの故郷にあたる。ここでは19世紀後半から20世紀初頭にかけてクロンダイク·ゴールドラッシュが起こり、3万人もの入植者が押し寄せてそれまでの平穏な環境が一変した歴史を持つ。そんななかトロンデック·フウェチンは未曾有の変化に適応し、入植者と共存する道を切り開いた。この地には、そんな金鉱採掘によって栄えた歴史と先住民の歴史文化が色濃く残っている。

トロンデックとは先住民の言葉で「叩き石の水」を意味し、発音が難しかったため訛って伝わったのが「クロンダイク」だ。トロンデック·フウェチンはこの地で何千年もの間、生活を営んできた。しかし、ここで金が発見されて以降、多くの人が金と鉱物を求めてこの地に押し寄せ一気に植民地と化した。その結果、先住民はかつての土地を奪われて疎外され、居住エリアや環境が劇的に変化した。この環境の変化に適応すべく、先住民は入植者との交流の場を作りつつ伝統的な暮らしと文化を維持するための努力を重ね、自身の生活を守り抜いたのだ。

構成資産には、植民地化が進む以前の先住民による暮らしぶりを示す遺跡から、侵入者による植民地化以降の文化的背景を示す遺跡までが含まれている。彼らの生活の中心地であったことを示す集落や建造物、収穫場、野営地といった考古学的な遺産は一帯に広がっており、土地開発や放置による影響を受けることなく良好な状態で残っている。これらは先住民の定住パターンや文化的伝統、資源の利用など、当時の環境や生活の様子を示す重要な資産として評価され、2023年に世界文化遺産に登録された。

ゴールドラッシュで生まれた町へ

ドーソン·シティはゴールドラッシュによって作られた町。ここには木造のホテルや劇場、スイングドアのあるサルーンなどカラフルな建物が建ち並び、まるで西部劇の世界に入り込んだかのような光景が広がっている。

ドーソン·シティ博物館では、この地で採れる金や鉱物に関する展示が見られる。先住民の歴史や文化をより深く学ぶなら、ダノジャ·ゾ·文化センターへ。ゴールドラッシュが始まるずっと前から自然と共存してきた先住民の歴史と知恵に触れることができる。そのほか、カナダ最古のカジノとクラシックショーを楽しめるギャンブリング·ホールや、ゴールドラッシュのきっかけとなった最初の金の発見地など、当時の繁栄を物語るさまざまな施設がある。周辺では今も金の採掘が行われており、観光客もゴールドパニング(砂金すくい)を体験することができるので、ぜひ参加してみよう。

遺産プロフィール

トロンデック=クロンダイク
tr’ondëk-klondike

登録年 2023年
遺産種別 世界文化遺産
https://parks.canada.ca/culture/spm-whs/sites-canada/trondek-klondike

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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