アメリカ大学進学のファイナンス③
税制優遇を活用した資金準備

大学進学費用の一部を奨学金でまかなったとしても、まだかなりの金額が自己負担になることが一般的でしょう。今回は資金準備に役に立つ税制優遇措置を紹介します。

教育関連の税額控除

税制による直接的な補助としては、教育関連の税額控除であるAmerican Opportunity Tax Credit (AOTC)とLifetime Learning Credit (LLC)がありますが、4年制大学の進学に役立つのはAOTCです。

AOTCは、学生が大学の最初の4年間に受講する授業料と必要な学用品の費用に対して適用されます(寮費、食費などは対象外)。これらの費用の年間支出が4,000ドル以上の場合、その年の所得税額から2,500ドル(税額控除の上限)の控除が受けられます。したがって、4年間で最大10,000ドルの税額控除が可能です。AOTCは学生一人当たりですので、大学に通う子どもが複数いれば、それぞれについて最大2,500ドルの控除が受けられます。

学生が親の扶養家族(Dependent)の場合、(費用を負担したのが親か学生かにかかわらず)税額控除できるのは親になります。学生が親のDependentでない場合(Dependentとしない場合)、学生がAOTCによる税額控除を受けられます。学生に収めるべき所得税がなかったとしても、AOTCの40%は還付可能(Refundable)です。

AOTCには所得制限があり、フルに利用できるのは、Modified Adjusted Gross Income (MAGI)が単身者申告で8万ドル、夫婦合算申告で16万ドル以下の場合です。それ以上のMAGIの場合はAOTCが段階的に減少し、単身者申告で9万ドル、夫婦合算申告で18万ドル以上では利用できません。その場合、学生を親のDependentから外し、学生自身がAOTCを請求した方が有利な場合があります。

AOTCの詳しい適用条件は、こちらをご覧ください。

ちなみに、LLCはAOTCと同時には利用できませんが、大学の4年間以外にも幅広く教育機関や専門学校の通学に適用されます。控除額は、授業料、教科書などを対象に最大で2,000ドルです(詳しくはこちら)。

529プラン

529 プランは教育資金のための積立口座で、口座内の運用益が非課税になります。つまり、所得税課税後の資金を拠出、運用益非課税で、Roth IRAに似ています。また住んでいる州の529プランへの拠出は、多くの州で一定の州所得税優遇(所得控除または税額控除)の対象となります(州所得税がない州は関係ありません)。

州ごとに異なる529プランありますが、住んでいる州にかかわらず、好きなプランを選べます(ただし、州外の529プランに関して、住んでいる州の所得税優遇はありません)。口座内の資金を引き出す際は、授業料や寮費、さらには必要な学用品まで、様々な費用に利用できます。

親が子どもを受益者(Beneficiary)とする529プランに拠出した場合、親から子どもへの贈与(Gift)として扱われます。そのため、実質的に年間拠出は贈与税(Gift Tax)の基礎控除枠(2025年19,000ドル)に制限されます。夫婦それぞれの基礎控除を活用した場合、子ども一人に対して19,000ドル×2=38,000ドル(2025年)の拠出が可能です。また529プランへの拠出の場合、5年分の贈与税基礎控除を前倒しで使うことができますので、最大で38,000ドル×2=190,000ドル(2025年)の一括拠出ができます。

529プランのデメリットは、使わない資金が口座に残った場合に(ペナルティなしでの)資金使途が限られることです。Eligible Educational Institutionに対するQualified Education Expense以外の引き出しには、運用益部分に所得税プラス10%ペナルティがかかります。Eligible Educational Institutionに含まれる米国外の大学は限定的で、子どもが日本を含む米国外のNon-Eligibleな大学に進学した場合、ペナルティなしでの引き出しができません。受益者の名義変更(使わなかった分を他の子どもに回す)や一定の条件で受益者名義のRoth IRAに移管も可能ですが、余剰資金の使い勝手が悪いことは否めません。

そう考えると、529プランが有効なのは、大学進学までにまだ相応(例えば10年以上)の期間があるでしょう。そもそも大学進学までに期間があまりない場合、運用成果がプラスになるとは限らず、運用益非課税のメリットがあるか不確実です。Elementary Schoolまでのうちに拠出・運用をはじめ、運用成果や子どもの進路に応じてMiddle Schoolぐらいで拠出額を調整し、大学進学で使い切る範囲内にうまく収めたいものです。

Traditional/Roth IRAの活用

529プランの余剰資金に関する使い勝手の悪さを考えると、Traditional/Roth IRAを教育資金の支払いに使うことも選択肢になります。Traditional/Roth IRAでは、Eligible Educational Institutionに対するQualified Education Expenseのための引き出しは、早期*引き出しのペナルティ対象外のためです。教育資金に使わなかった分は、Traditional/Roth IRA本来の目的であるリタイアメントのために運用継続しておけばよいのです。

*Traditional IRA:59.5歳未満の引き出し、Roth IRA:59.5歳未満、かつ拠出後またはRoth Conversion後5年未満の引き出し

ただしTraditional/Roth IRAは、年間の拠出上限が50歳未満7,000ドル、50歳以上8,000ドル(2025年)と、529プランほど大きくありません。自身や配偶者の勤務先の年金プラン(401(k)など)の有無や所得水準に応じて拠出制限がありますので、拠出できない人もいるでしょう。

また早期引き出しのペナルティがなくても、Traditional IRAから引き出した金額の全額、Roth IRAから引き出した金額の運用益部分には所得税がかかりますので、IRAの税効果は限定されます。

とはいえ大学進学費用の積立口座・資金源として利用価値があるのですが、Traditional/Roth IRAが特に有効性を持つのは、勤務先の年金プランに雇用主マッチング拠出があり、かつ、在籍中におけるTraditional/Roth IRAへのロールオーバーを認めている場合、または退職して元勤務先の年金プランからTraditional/Roth IRAへのロールオーバーできる場合です。ロールオーバーしたTraditional/Roth IRAからであれば、早期引き出しペナルティなしでQualified Education Expenseのための引き出しが可能ですので、雇用主マッチング拠出分をあたかも大学進学費用補助のように使うことができます(なお、401(k)など年金プランでは、Qualified Education Expenseのための引き出しはペナルティの対象外ではありません)。

まとめ

ばらばらと列挙しましたが、活用できそうなものはあったでしょうか。これら以外にもI Bond/EE BondやCoverdell Education Savings Account(Coverdell ESA)といった税制優遇措置もあるのですが、インパクトが小さいので省略しました。

高額なアメリカ大学進学費用については、いろいろな手段を総動員する必要があろうかと思います。次回は、ラスト・リゾートとも言える学生ローン(Student Loan)についてまとめてみたいと思います。

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後藤浩 (Hiroshi Goto)

後藤浩 (Hiroshi Goto)

ライタープロフィール

Goto Financial Advisory LLC 代表
東京大学経済学部卒。早稲田大学大学院経営管理研究科修士(MBA)第一生命、PwC勤務後、年金基金向け運用コンサルタント、米系資産運用会社の執行役員など25年の資産運用業界経験を有する。2023年に在米日本人のためのフィナンシャル・プランニング法人、Goto Financial Advisory LLC設立。 リタイアメント・プランニングに役立つブログ多数掲載中。 2019年よりテネシー州在住。Sister City of Nashville 理事。資格:CFA協会認定証券アナリスト、米国税理士、認定ソーシャル・セキュリティ・アナリスト

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