Dassai Blueの挑戦

日本酒「獺祭」が新たに見据えたのは、アメリカ市場。
舞台は、ニューヨーク州ハドソンバレー――美しい自然に囲まれた地に、獺祭は新たなDassai Blue Sake Breweryを築いた。
目指すのは、「世界の富裕層に向けた日本酒ブランド」。
山口県から世界へ羽ばたく獺祭が、なぜアメリカを選び、どんな挑戦に臨んでいるのか。
今回は、獺祭会長・桜井博志氏にその戦略と現地での取り組みについて聞いた。

ブランドの”顔”を築く拠点づくり

「現在、売り上げの半分が輸出であり、将来的には獺祭の売上は海外が7割になるだろう」と語る桜井会長。世界的に日本酒人気が高まるなかでも、アメリカは経済規模の大きさに加え、自由や多様性の象徴として世界に影響を与える文化的存在でもある。
「この地でブランドを確立できなければ、世界の中で将来がないだろう」との思いから、アメリカ進出を決意した。

「ブランドとしての“顔”をどこでつくるか」という観点から、アメリカの中でも特に経済の中心地である東海岸、かつ酒造りの鍵となる水がきれいなニューヨーク州ハイドパークにDassai Blue Sake Breweryを構えた。自然環境と経済拠点の両面で理想的と判断し、建設予算は最終的に当初予定の約3倍に達したが、「それだけの価値がある」と桜井氏は語る。

「人の力」が品質を作る 

主原料となるお米はアーカンソー州産の山田錦、水はハドソンバレーの地下水を使用。素材や風土の違いを生かしながらも、「Dassai Blueらしさ」を表現することが、現地での酒造りの核となっている。

品質を保ちながら「今日が一番良い酒」をめざし、一つとして同じ味わいにならないというからこそ、彼らの酒造りには奥深さが感じられる。

獺祭が世界に誇るのは、お酒そのものへのこだわりだけでなく「人の力」である。日本国内では酒造規模は十数番目ながら、製造スタッフの数は国内最多を誇る。2位を大きく引き離し、220名が一丸となって酒造りに励む。一方アメリカでは、日本人スタッフ3名と現地スタッフ7名、計10名体制で取り組んでいる。

「オートメーション化による人員削減は、我々にとって技術革新ではない。人の能力を最大限に引き出し、付加価値を上げていく造り方をしている」と桜井氏は語る。

手仕事が生むクリアな味わい

Dassai Blueの酒造りは、多くの工程に人の手が加わる。なかでも、日本酒のもととなる酵母を育てる伝統的な製法「山おろし」は、酒母を一気に投入せず、ゆっくりすくって少しずつ注いでいく。こうしたていねいな手作業によって、雑味のないクリアな味わいが生まれるのだという。
手間ひまを惜しまず積み重ねる小さな工程の連続こそが、Dassai Blueの圧倒的な品質と味わいを支えている。

感動で広がるDassai Blue

精米歩合を極限まで磨き上げて生まれる雑味のない味わい、華やかな香り、そして繊細な余韻といった獺祭ならではの特徴に注目する消費者は、アメリカでは想像以上に少なかった。そのため、「日本で評価されてきたように、高品質であれば自然と受け入れられ、市場に浸透するだろう」という当初の目論見とは異なり、現実には品質だけでは簡単に差別化できないという壁に直面したという。
桜井会長は、「獺祭の顧客層は、日本でも所得層の高い方々が中心で、アメリカでも同じ層を狙っている」と話す。

「まだ走り始めたばかりだが、圧倒的な品質の追求と酒造りのこだわりを軸をぶらさずに浸透させていく。これこそが、獺祭が世界進出を進めるうえでもっとも大切な要素だ」と桜井氏は語る。

アメリカはマーケティングが盛んな国だが、桜井氏は「広告や戦略に頼るのではなく、実際に飲んで『おいしい』と感動してもらってこそ広がる」と話す。だからこそ、レストランや酒販店といった”リアルな場”での展開を重視し、食体験を通じてブランドの魅力を伝えている。「味わった瞬間の驚きこそ、文化を超えて伝わる」と、その手ごたえを語った。

海外に挑む日本企業へのエール

最後に桜井氏はこう語る。「頭で考えるより、まずやってみること。そして、自分たちの力で進めたほうが成功の確率は高い」。実体験に基づいたこの言葉は、これから海外に挑戦する日本企業にとって心強いヒントとなるだろう。

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