メキシコでは、親に連れられて不法に渡米し米国で育ったものの、強制退去になるなどして帰国した若者を集めてソフトウェア・プログラマーに育てる学校が設立され、注目を集めている。
■出世払いで生活費支援
ウォールストリート・ジャーナルによると、メキシコシティに民間教育機関オラ・コード(Hola Code)を設立したマルセラ・トレス氏(30)は「最近までメキシコにはソフトウェア・エンジニアや英語を話せる人が少なく、米国のテクノロジー企業を引きつける力が弱かったが、今私たちはその両方を提供できる」と話す。現在同校でプログラミングを学ぶ22人のほとんどはミレニアル世代で、英語を話し、自分を米国人と思って育った人が多い。
トレス氏はオラ・コードにふさわしい生徒を見つけるため、米国帰りのメキシ コ人が語学力を生かそうと考えて選ぶことの多いコールセンターの外に立ってビラ配りなどをする。有望と思える人には、ピザやビールをおごりながら「1日12時間、週に6日勉強すれば学費が無料になる」「月約250ドルの生活費が貸与され、ソフトウェア会社に就職した後に返済すればいい」といった同校の仕組みを説明する。
ロサンゼルスで育ったが、就労ビザがないため良い仕事に就けず2012年に帰国したというセサル・タピア氏(29)は「話がうますぎて最初は何かの詐欺かと思ったよ。でも今は新しい家族を見つけた気分だ」と話している。
■米国に近いIT拠点
メキシコは近年、インドやカナダに対抗して特殊就労ビザの発給手続きを簡素化しており、その結果オラクルやアマゾン、その他の米国企業がメキシコで人材を募集するようになった。米国ではソフトウェア技術者が慢性的に不足し、人材の奪い合いや賃上げ競争が起きているが、特殊技能を持つ外国人向け就労ビザ「H-1B」の受給条件が厳しくなり、国内で有能な移民を雇うことがますます難しくなっている。
メキシコ政府は現在、中部ハリスコ州の州都グアダラハラを同国のIT拠点にしようとしている。インドなど海外のIT拠点に比べてはるかに米国に近く、時間帯も同じという利点があり、IT関連労働者はすでに11万5000人に上る。サンフランシスコのIT企業ワイズライン(Wizeline)は、グアダラハラ・オフィスの人員を1年間で2倍の約330人に増やしており、今後はオラ・コードの卒業生を雇用する計画だ。同オフィス社員の出身は16カ国と多様で、スポーツ用品ブランドのナイキからジャーナル紙の親会社ニューズ・コーポレーションまで幅広い企業から請け負ったソフトウェアのプログラムを書いている。
エジプト出身者は8人。その1人はここで働く理由の1つに米国で反移民、反イスラムの風潮が広がっていることを挙げる。「エジプト人が米国のビザを取得するのは難しく、どれほど歓迎されるかも分からない」
世論調査ハリスの17年調査によると、米企業の約72%はH-1Bビザ枠の拡大を望んでおり、ビザ受給が難しいため22%の企業は一部の仕事を海外に移している。
一方、不法移民の親とともに米国に渡った「ドリーマー」と呼ばれる人々は 180万人に上る。ワイズラインは17年にトランプ政権が前政権からのドリーマー保護制度を廃止した時、国外退去を言い渡されそうな人々に同社への就職申し込みを呼びかけた。ビスマーク・レペCEOは、より多くの移民にメキシコへ来てほしいと望んでおり、彼らには「米国文化を理解し英語を話す君たちを求める多国籍企業は多い」と話している。(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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