食料品売り場から商品がなくなったサプライチェーン(供給網)の混乱や感染症の世界的流行(パンデミック)、さらに最近の大規模な自然災害や緊迫した世界情勢などを受け、自宅や車に必需品を備蓄したり防災訓練を受けたりして、いざという時に備える人が全米で増えている。
■現実的な災害対策
ウォールストリート・ジャーナルによると、これらの人々は聖書にあるような「世界の終末」を念頭に弾薬やガスマスクを常備するいわゆる「ドゥームズデイ・プレッパーズ(doomsday preppers)」とは違い、地震、竜巻、洪水、火災といった現実の災害に備え、電力や水の供給がなくても数日から数週間を自力で乗り切れるように準備している。
オーストラリア拠点の金融サービス会社ファインダー(Finder)が4月、米成人2179人を対象に実施した調査では、約3分の1が過去1年間に、非常食、医薬品、大量の飲料水などにお金を使った(平均149ドル)と答えており、2020年調査の約20%から増えている。
こうした需要を背景に、手回し充電ラジオやマスク、保存食、救急用品などが入った防災パックを販売する企業も増えている。伝統的なドクターズバッグ・スタイルなどのキットを販売しているプレッピ(Preppi、カリフォルニア州)は23年初めからの売り上げが前年比で29%増加。ジュディ(Judy、ニューヨーク州)の売り上げは、北東部で山火事の煙が広がったこの6月に前年比4倍に達した。ビールの保冷ボックスで有名なイェティー(Yeti、テキサス州)は、非常時用品販売のアンチャーテッド・サプライ(Uncharted Supply、ユタ州)と提携してマイラー(Mylar)素材のテントや浄水システムを含む730ドルのサバイバル・キットを提供。アンチャーテッドは16年の創業以来最高の売り上げを記録する勢いだという。
■人口構成が変化
分析会社スプラウト・ソーシャルによるX(旧ツイッター)やユーチューブなどソーシャルメディアサイトの分析によると、災害対策関連投稿への「いいね」やコメント、シェアは23年9月までの12カ月間で前年比47%増加し、動画投稿アプリのティックトック(TikTok)で「#Prepper」とタグ付けされた動画は16億回も再生されている。
自立訓練サイト「ザ・プリペアード(The Prepared)」では、初期の視聴者は主に保守派の白人男性で構成されていたが、コロラド州に住む創設者のジョン・レイミー氏によるとその内訳は変化し、今ではあらゆる人種、性別、政治的志向の人が混在しているという。
ニュージャージーを拠点に約20年間サバイバル技術を教えてきたマーロン・スミス氏が開催する「アーバン&アウトドア・サバイバル」の受講者(1回約300ドル)も、以前は熱心なアウトドア愛好家らを中心に楽しませていたが、最近は参加者のほとんどが災害への対処法を学びたがっており「全く新しい市場が生まれた」と話す。特に10月初めにイスラエルで紛争が始まってからは、顧客からの問い合わせが増え、次のトレーニング(20人枠)は10人がキャンセルを待っている状態だ。
カリフォルニア州モーガンヒルに住むコピーライターの男性(30)は、20年夏に山火事で避難命令が出た時、混乱しながら10分ほど家中を走り回って飼い猫を捕まえたり衣類や薬を集めたりしたが、これをきっかけに備えに対する考え方を変えた。現在は自宅と車に約200ドル相当の備蓄品と数百ドルの現金を用意しているほか、山火事に備えた避難計画も立てた。男性は「何が起こるかは自分でどうにもできないが、備えあれば憂いなしだ」と話している。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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